第36話 DREAM SURVIVAL - 堂ヶ島戦域

 ――風が止んだ。海鳴りだけが、鼓膜を叩いている。


 佐倉悠は絨毯から降りると、背中のポーチから一本の円筒形のグレネードを取り出した。灰色の無骨な筐体には「CHAFF TYPE-Z」と刻印されている。


「EMPだけじゃ足りねえ。アイツら、光学と赤外線で追ってくる」


「それ、何だ?」とユウトが尋ねた。


「チャフグレネード。金属粒子をばら撒いて、センサー類を撹乱するヤツだ。札幌で拾ってきた“自衛隊のゴミ”だけどな」


 その言葉が終わる前に、谷側の岩陰から再び“奴”の音が迫ってきた。


 ――カン、カン、ガン……


 岩を砕き、アステロイドが再び姿を現す。

 数本の足は既に破損しているが、それでも前進を止めない執念のような“意思”を感じさせた。


 「ユウト、光学ホーミングが来る。次、撃たれる」


 佐倉はチャフグレネードのピンを歯で引き抜いた。


 シュボッ……!!


 爆発音ではなく、乾いた空気を切り裂くような音とともに、銀色の粒子が辺り一帯に広がった。


 その瞬間――アステロイドのセンサー部が明らかに混乱した挙動を見せた。


 「視認ジャミング確認。ホーミングレベル、低下……」


 「今だ!」


 佐倉はユウトの手を引き、洞窟の中へと飛び込んだ。



---


―堂ヶ島・天窓洞、地下空間


 海食で形成された天然のドームに、月の光が天窓から差し込んでいた。

 かつてここに隠されたとされる、旧文明の中枢データが眠る場所。


「ここが……“トロイの記録庫”か……」


 佐倉が手をかざすと、地面の岩盤がスライドし、何かを封じた六角柱の装置がゆっくりと姿を現した。


 「やっぱり本当だったんだな、あの古文書」


 だがそのとき――背後の海面に波紋が走った。


 「来るぞ!」


 水飛沫とともに、再びアステロイドが姿を現す。チャフの効果は一時的だった。


 「なら、これで終わらせる!」


 佐倉は再びポーチを開き、第二のチャフグレネードと、旧文明由来の“誘導式光粒子弾”を連結させる。


 「いけるのか、それ……?」ユウトが言った。


 「知らねぇよ。でもやらなきゃ終わる」


 グレネードを高く掲げ、トリガーを同時に引く――


 閃光と金属片が交錯し、堂ヶ島の空間が白く染まった。



---


 ――そして、静寂。


 粉塵の奥で、アステロイドは完全に沈黙していた。

 そのコア部から抜け出すように、薄く光る結晶体が現れる。


 「これが……“未来の遺産”の、鍵……?」


 佐倉はそれをそっと手に取り、息を吐いた。


 「徳川、今川、北条……全員、この情報を狙って動いてた。俺たち、先に手に入れたってことは――」


 「今度は、追われる側になるな」ユウトが笑った。


 だが、その背後で、白い軍服を着た人物がゆっくりと拍手していた。


 「――実に見事だ、佐倉悠。だが、この戦い、まだ第一幕が終わったに過ぎない」


 その人物の胸元には、黄金のエンブレム。

 “連合アストラ評議会”――かつて人類を統一した超国家組織の復活を企む者だった。


 第二幕――宇宙と過去の支配者たちとの戦いが、今、始まろうとしていた。




 ―夜の堂ヶ島・天窓洞の地下空間。


 島津義弘を無力化した直後、佐倉とユウトのデバイスが一斉に警告音を鳴らした。


> 〈警告:区域内に複数の戦闘生命体を検知〉

〈この区域は「ドリカム社戦術試験場:ZONE-309」として登録されています〉


〈サバイバルゲーム、開始〉


---


◆ ルール説明(システム音声)


> ・この区域は72時間封鎖される

・プレイヤーには自動でコスモギア(拡張装備)が割り当てられる

・目的:脱出ポイントに到達すること(堂ヶ島・浮島の廃教会)

・ただし、10体の歴史兵が出現し、妨害を行う


---


◆ サバイバル参加者(各陣営)


【TEAM佐倉】


 佐倉悠:音導刃使い。感情を周波数に変換する「共鳴斬」持ち。


 ユウト:情報解析&戦術支援型。データ盾とEMP弾装備。


 魔法の絨毯:再構成中。自律飛行可能だが会話はまだ曖昧。



【戦術兵側】《歴史記憶投影型AI》


 本多忠勝(機械槍型)


 雑賀孫一(スナイパー)


 柳生宗矩(ステルス近接)


 山中鹿之助(再生能力あり)


 北条氏康(トラップ使い)

……and more



---


 ◆ 第一の戦闘:雑賀孫一(SAIKA-M901)現る


 洞窟の一角、古い鍾乳石の間から、乾いた銃声が鳴った。


> パァンッ!


 佐倉の肩が弾き飛ばされる寸前、ユウトが盾で防ぐ。


「……来たな、“狙撃の神”か」


 そこに現れたのは、銀色の仮面と和洋折衷のスナイパースーツをまとった男。

 背負う銃は、《反魂式マスケット》。一発ごとに魂の記憶を削る兵器。


> 「この世界で、お前たちの“夢”など、標的でしかない」


 佐倉は膝を突きながら、ギターケースから**幻律弦げんりつげん**を引き抜く。

弦を1本、はじいた。


> ♪「朝がまた来る/DREAMS COME TRUE」


 振動が地面に波紋を広げ、孫一の照準がわずかにブレる。

 ユウトが突っ込んだ。「今だ!」


 佐倉の刃が音と共に“夢”を切り裂いた瞬間、孫一の仮面が割れた。


> 「俺の……夢……忘れていたのは……俺か……」


 そして彼も、淡く空へと昇華する――。



---


 ◆ サバイバルの真実


「ユウト……これは偶然じゃない。歴史兵たちは、**ドリカム社が作った“夢の残響”**だ」


「……記憶データじゃない。“感情の欠片”を兵器化してる」


 佐倉が見つめたのは、島の奥、朽ちた浮島教会。

そこには、“最終戦術記憶兵”――柳生宗矩やぎゅうむねのりが待つとされていた。



---


🌀 次回予告:


> 天窓洞を抜け、音と魂のバトルは“浮島の教会”へ。


そこに待つは、

【超越記憶兵・柳生宗矩】――“夢を斬る者”


そして、佐倉自身の“消された記憶”が、呼び起こされる。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る