第7話 互いに道を開けまくる日々 ~道を開けろ療法~

 いつの間にか、互いの部屋を行き来する際には、


「道を開けろ、俺が通る……!」


 と、


「道を開けろ、私が通る……!」


 が互いの口癖になっていた。

 愛莉が●●●号室に来て俺の部屋のドアを開ける瞬間に「道を開けろ、私が通る……!」と言う度に、つい俺は「あははは」と笑ってしまった。俺が笑うと愛莉も笑った。

 逆に俺が▲▲▲号室に行った際、俺は必ずエヴァンゲリオンの碇ゲンドウみたいな渋い声で「道を開けろ、俺が通る……!」と言いながら愛莉の部屋のドアを開けた。派生形として俺は、碇シンジみたいな高い声で「道を開けてよ父さん! お願いだよ! 僕のために道を! 前はあんなに開けてくれたじゃないか! 父さん!」と言いながら愛莉の部屋のドアを開ける事もあった。すると愛莉は笑った。だが基本、いつも愛莉より俺の方が笑っていた。


 ──お互い、道を開けまくる日々を過ごした。


 それは愛莉が鬱期だとしても関係なかった。いや、むしろ愛莉が鬱の時だからこそ彼女には「道を開けろ、私が通る……!」と威圧的に宣言する精神が必要なのかもしれない。鬱の時は自己肯定感が下がって弱気になるからだ。

 俺は一度だけ、鬱状態の愛莉に演技指導をした。

 あまり道を開けてほしくなさそうに控えめに「道を開けろ。私が通る……」と優しい声で言った日が続いたから、


「だめだ。愛莉の『道を開けろ』はあまりにも控えめで優しすぎる。もっと高圧的な感じが欲しい。めっちゃ調子に乗ってる金髪の港区女子みたいな感じで頼む」


 と要求した。

 すると愛莉は「難しいよ」と言って少し笑った。


「じゃあ俺が港区女子のお手本を見せる」


 と言って、一旦部屋から出て、部屋のドアを開けながら、


「ねぇちょっと道開けてくれな~い!? この港区女子の私が通るんだけど~!!」


 と高い声で高圧的に言った。

 すると愛莉は「ふふ」と笑った。


「社会不適合者にこそ『道を開けろ、私が通る……!』の精神が必要だと俺は思う。社会不適合者だって堂々と高圧的に道の真ん中を通ってくれ。俺はそれが伝えたい」

「意味わかんないんだけど」

「これは俺が独自に開発した“道を開けろ療法”だ。これはマジで鬱に効くと思う。ドアを開ける度に『道を開けろ、俺が通る……!』って言うと元気が出る。そして自己肯定感が高まる」

「まぁ、たしかにちょっと元気は出るかも」

「割と真面目にちょっと効果あると思うんだよな、これ。自分が強くなった感じがするぜ」

「そうかなぁ」


 愛莉は懐疑的だった。


「まぁ、とりあえずドアの開閉の度に『道を開けろ、私が通る……!』って言うんだ。そしたら光は徐々に見えてくる」


 ◆


 結論から言うと、躁鬱病の愛莉の鬱状態は2か月ほど続いた。俺が隣に住んでいて在宅の作業所で引きこもって働いている事もあり、愛莉が不調なサインをLINEで伝えてくれた時はすぐに作業を中断して様子を見に行けた。

 愛莉が鬱転してすぐ、俺はこっそり一人で近所のドラッグストアに行き、あらかじめ自分の部屋のクローゼットに軟膏やガーゼや包帯を備蓄しておいた。

 だが、それらを使う機会は、この2か月で一度も無かった。

 躁鬱の愛莉と付き合っていると、一体何をどこまで俺が管理するべきなのか、その塩梅が難しい。鬱期と言っても、ずっと一定なわけではないからだ。愛莉の鬱期の中でも、比較的調子の良い鬱の時と調子の悪い鬱の時があった。決して一直線ではなく、鬱の中にも細かい波がある。


「過去の俺は、愛莉と同棲してた時に何か管理してた? 薬とか刃物とか」


 と訊ねた。すると愛莉は、


「いや、特に何も。いつも私はめっちゃ自由だった」


 と言った。


「え、俺は何も管理しなかったのか?」

「うん。ガチで何も管理しなかった」

「愛莉は自傷とかODとか、しなかったの?」

「若い頃はよくしてた。でも優雅は私が何しても特に何も言わなかったよ。私がそういう不健康な事をして、優雅が不機嫌になった事すら無い。全て当たり前のように受け入れてた」

「俺は愛莉のことを全く心配してなかったのか?」

「心配はしてくれてたよ。躁鬱に関連する本とかも何冊か読んでたし。なのに、優雅はその上で、私の躁鬱に関しては不自然なくらい放任主義だった。『本を読んでも意味ねーな。愛莉は愛莉だ』とか言ってた」

「俺は何を思って躁鬱の愛莉を放任してたんだろう」

「優雅なりの考えがあったんじゃない? ずっと私のことを信頼してくれてたのかもね。とりあえず今の28歳の私は自傷もODもしてない」

「へえ」

「優雅があまりに何もしないし、私が何をしても普段通りだったから、私がちゃんとしなきゃダメだなっていう責任感とか危機感は芽生えた」

「仮に愛莉が血まみれでも、俺は普段通りだったのか?」

「うん。傷が深い時も、優雅は淡々と無表情で応急処置して、それで終わりだった。一度だけ、私の血が止まらなくて縫合が必要になっちゃった事があるんだけど、その時は深夜で、優雅がすぐ救急車呼んで、2人で救急車に乗って病院に行った」

「そんな事があったのか」

「優雅は自傷に関しては特に何も言わなくて、くだらない変な話をいつも私にしてきた」

「例えば?」

「そうだなあ。『無人島に一つだけ物を持っていけるとしたら何を持っていく? っていう質問があるけど、そもそも無人島に無抵抗で連れていかれるという前提条件がおかしい。俺は無人島に連れていかれそうになったら必死に抵抗するから、結果的には何も持って行かないだろうな』とか」

「なんだそれ」

「そういう話を、私が血だらけの時にしてきたの。逆になんか怖かった。何考えてるか分からなくて」

「真相は不明だな」

「そうだね。あとは、『パチンコという単語からチを抜くとパン粉になるという事実を多くの人間は知らず、のうのうと日々を生きている。俺はそんな世の中に絶望している。食パンは手作りすると美味しいのに』とか。そんな話ばかり私にしてきたの。私が自傷した後に」


 そう言って愛莉は昔を懐かしんでいるような顔をした。


「今度、近所の小さいパン屋に行こう。個人経営のパン屋だ」


 と俺は言った。


 ◆


 気が付けば、もう9月の下旬になっていた。

 愛莉の鬱期が終わるまでの2か月間、俺は心のどこかで常に愛莉を心配しつつも、終わってみればあっという間だった。

 愛莉は元気を取り戻した。それが一時的なものだとは分かっているが、苦しい鬱の期間が一旦終わった事は喜ばしい。

 過去の若い愛莉はよく自傷やODなどをしていたそうだが、今の愛莉はしないそうだ。

 どういう経緯でそうなったのかは一切知らない。


「──道を開けろ、私が通る……!」


 愛莉がそう言いながら俺の部屋のドアを開けた。『道を開けろ』に覇気がある。これには思わず道を開けたくなってしまう。

 だが、それよりも驚いたのは、愛莉がケーキの白い箱と、ラッピングされた青い袋を持って現れたことだった。


「誕生日おめでとう優雅。今日で29歳だね」

「あ、今日って俺の誕生日だったんだ。てか、ありがとう。めっちゃ嬉しい」


 愛莉と俺は小さいテーブルを挟んで対面する形で座った。


「ケーキとプレゼント買ってきた。ちょうど優雅の誕生日のタイミングで私の鬱期が終わってくれて良かったよ。たまたまタイミングが良かった。優雅の“道を開けろ療法”が効いたのかもね」

「いや、愛莉がちゃんと薬を飲んで生活してたからだ。道を開けろ療法に医学的根拠は全く無い」

「でも、優雅の部屋に来るたびに『道を開けろ、私が通る……!』って言ってたら、たしかに自己肯定感がちょっと上がったような感じはする」

「え、マジ?」

「少し自分に、根拠の無い自信が付いた」

「それは良いことだ。『なんでコイツこんなに自分に自信があるの?』って奴ほど実は生きやすいんだよ、この世の中は。バカの方が人生を楽しく暮らせる。お笑い芸人が人気なのは、バカを演じてくれるからだ。人類は無意識下で超ド級のバカを求めている。この世界を救うのは世界一のバカだ」

「優雅は自分に自信がある?」

「俺は自分に自信めっちゃある。俺は天才だ。何故なら“道を開けろ療法”を開発したからな」

「今日はテンションが高いね」

「愛莉が誕生日を祝ってくれたからだよ」

「私、いつも思うけど優雅が羨ましい」

「どこが?」

「芯が強くて自分に自信があるから」

「愛莉は自分に自信が無いの?」

「無いよ。ゼロどころかマイナス。自分に誇れるところが何もないの」

「それは良くないな」

「優雅は、自分のこと好き?」

「好きだよ」

「どうやって自分のこと好きになったの?」

「勘違いしがちだけど、他人から好かれるっていう方法は本当の意味での自己肯定には繋がらない。他者からの肯定や評価は一過性だからだ。最初は、諸行無常を自覚するんだ。全ての人や存在は移り変わる儚いものだと自覚するんだ。そうすると、自ずと信仰するべき対象は自分なんだと気付ける。そうやって俺は自分を好きになった。実は『道を開けろ、俺が通る……!』っていうフレーズに自己肯定のコツの全てが集約されている。だから愛莉はこれから毎日『道を開けろ、私が通る……!』って言うべきだ」

「わかった」

「あと、この世の中に存在する娯楽は音楽以外は全てくだらないという事実に気付くと、相対的に自分を好きになりやすい」

「ふーん」

「例えば、漫画とか小説をたくさん読んでると、そのうち『あー、どうせこういう展開になるんだろうな』っていうのが自然と予測できるようになってしまい、全ての創作物がくだらなく思えてしまう。俺はそういう現象に陥って、漫画とか小説とかアニメとか映画とか、ほとんど楽しめなくなった。その辺の田んぼを眺めてた方が楽しい」

「そんなことないでしょ」

「いや、マジで田んぼを眺めてた方が面白い。田んぼは芸術品だ。俺も愛莉にとっての田んぼのような存在でありたい」

「発言が謎すぎるんだけど。優雅は田んぼの何が好きなの?」

「綺麗に生え揃ってるのが良い。あと常に一定なのが良い。しかも田んぼは無料だ。だが映画館に行くと1500円も取られる。田んぼを見る方がコスパが良い。田んぼにはストーリー性は無いが、そもそもストーリーという概念そのものがくだらないので、田んぼを見てる方が楽しい」

「優雅って、鬱になってから何も楽しめなくなったパターンの人でしょ」

「そうだね。音楽だけは楽しいんだけど、音楽以外の娯楽は飽きた。結局人間の想像力なんて神を超えられない。だからあまり娯楽が面白くないんだ」

「なんで音楽だけは飽きないの?」

「田んぼと同じで常に一定の存在だからだ。同じ曲を何度も聴く行為は、田んぼを眺める行為に等しい」

「なるほどね」

「音楽は良いよ。ロックバンドが特に良い。ロックバンドは最高に田んぼだ」

「私と一緒にいるのは楽しい?」

「楽しいよ」

「田んぼと私、どっちが大好き?」

「愛莉の方が好きだよ。だって愛莉は喋るからね。でも、田んぼは喋らない」

「じゃあ、もし田んぼが喋るようになったとしたら、私と田んぼ、どっちが好き?」

「愛莉。だって田んぼより愛莉の方が可愛いから」

「ふーん。どうせ私に隠れて田んぼに浮気してるんでしょ」

「まぁ田んぼのLINEは知ってるけど、連絡頻度は少ないよ」

「田んぼってスマホ持ってたんだね」

「あと物質的な快楽よりも、精神的な快楽を追求した方が良い。酒、大麻、覚せい剤などに手を出すより、ドアを開ける度に『道を開けろ、俺が通る……!』って言って精神的充足感を得るべきだ。しかも無料だ。コスパが良い」

「道を開けろ、私が通る……!」

「その調子だ。感傷や郷愁に浸ることに意味は全く無い。どんどん未来への道を開けていけ。そして立ちはだかる壁を全力で壊していけ。人生という道はまだまだ続いていくからな。……道を開けてよ父さん! どうして道を開けてくれないんだよ! 前はあんなに開けてくれたじゃないか! なのに、どうして!」

「あはは。前は道を開けてくれたんだ」

「あははは」


 俺が笑うと、愛莉はハッと思い出したかのように、こう言った。


「てか、こんなくだらない話をしてる場合じゃないの。今日は優雅の誕生日だから、優雅の誕生日を祝うの。まずケーキ食べよ」

「うん」

「優雅は昔からチーズケーキが好きだったから、チーズケーキ買ってきた。ちなみに私はモンブラン。優雅、お皿2つ持ってきて。スプーンはプラスチックのやつが付いてるから大丈夫だよ」

「わかった」


 俺は部屋から出て、お皿を食器棚から2枚取り、部屋に無言で戻って、テーブルのそばに再び座った。

 愛莉は箱からケーキを取り出して、互いのお皿にケーキを載せて、テーブルにお皿を置いた。美味しそうだ。


「じゃあ最初に私が歌うね。ハッピバースデートゥーユー、ハッピバースデートゥーユー、ハッピバースデー・ディア私が通るから道を開けろ~、ハッピバースデートゥーユー♪」

「いぇーい。道を開けろ~!」

「てか最近さ、私たち道を開けすぎじゃない? あははは」

「あはは。まぁ愛莉が鬱期だったこの2か月間、ほぼ毎日『道を開けろ』って2人とも言ってたからな」

「こんなに道を開けてるカップル、他に絶対いないよね。世界を探しても」

「そうだね。斬新で良いんじゃないか?」

「うん。じゃあいただきます。あ、このモンブランめっちゃ美味しい!」

「いただきます。と言うのは実は日本人だけだ。英語圏の人は『レッツ・イート』と言う。英語圏では『さあ食べようぜ』みたいなノリが主流で、食材への感謝や作り手への感謝は軽視されがちだ」

「さっさと優雅もケーキ食べて」

「ではここは日本人らしく、レッツ・イート」


 俺はそう言って、スプーンでチーズケーキを口に運んだ。


「美味しい」

「結構いいお店で買ってきたの」

「そうか。ありがとう」

「あとプレゼントあげる。はい」


 俺はラッピングされた青い袋を受け取った。袋は軽かった。


「開けてもいい?」

「もちろん」


 俺はゆっくりリボンを解いて、プレゼントの中身を確認して、手に取った。

 俺は笑って、こう言った。


「お、サメのぬいぐるみだ~。可愛い」

「優雅の部屋ってぬいぐるみがいっぱいあるから、ぬいぐるみにした」

「愛莉は俺が喜ぶものをよく分かってる」

「部屋見れば一発で分かるよ」

「そうか。ぬいぐるみは見てるだけで癒される。だから、ぬいぐるみをたくさん持ってる」

「ちなみに神奈川で私と暮らしてた時期は、優雅はぬいぐるみなんて一つも持ってなかった」

「ふーん。まぁ実際、ぬいぐるみ療法っていう概念は存在していて、鬱病やインナーチャイルドの癒しに繋がるらしい」

「そっか。私もぬいぐるみ集めてみようかな」

「ぬいぐるみは比較的すぐ手に入るから、おすすめだ」

「好きなキャラクターのぬいぐるみ集めてみる」

「うん」


 最近、推し活という言葉をよくメディアで聞く。何故、推し活がここまで一般的になったのか? それは俺が思うに、孤独を抱える人間が増えたからだ。特に今の若者は孤独な奴が多い。

 ちなみに俺が指す『若者』とは、80歳以下の人間を指す。

 そもそも年齢という指標に何の意味があるだろうか。

 長生きしたから偉いというわけではないし、夭折したから偉くないという事は一切ない。だが、俺が個人的に推しているバンドマン達が全員生きているのは嬉しい。

 ケーキをお互いに半分くらい食べた辺りで、愛莉が俺に提案した。


「ねぇ、ケーキ交換しない?」

「オッケー牧場」


 愛莉と俺はケーキを交換した。チーズケーキ選手とモンブラン選手の電撃トレードである。

 俺はモンブランを食べた。


「美味しい」

「チーズケーキも美味しいね」


 愛莉は笑った。


 ◆


 愛莉の鬱期が一時的に終わった事で、俺たちの行動の幅が広がった。

 俺は愛莉を連れて外出した。

 自然豊かな大きな湖に連れて行ったり、綺麗な花畑に連れて行ったりした。花畑にはキンモクセイやコスモスや彼岸花やダリアやゲッカビジンが咲いていた。

 湖はとても広く、2人でボートを漕いだりした。カレー屋でカレーを食ったり、馬車に乗ったりした。

 有名な神社にも行ったりした。2人して健康祈願のお守りを買った。

 何をするにも体と心が資本だが、心の病気はどうしても長期戦になる。30代、40代、50代、あるいはそれ以降。そのくらいは覚悟しなければならないし、一生治らない人だっている。

 2人で花畑に行った時、愛莉が俺にこんな事を言った。


「優雅が神奈川の精神科に入院した時ね、退院した優雅は私に、病院の中で仲良くなった入院患者さんの話をした。優雅は70歳の男の人と、71歳の女の人と仲良くなってた」

「それで?」

「優雅は『その70代の患者さんは2人とも一生をここで終えるんだって言って退院を諦めてた』って、少し切なそうな顔で私に言った」

「そうか」

「色んな患者さんの話を私にしてくれたよ。優雅は、『患者さんはみんな心が優しい人だった。なのにどうして精神科に入院しなきゃいけないんだろうね』って泣きながら言ってた」

「へえ」

「めっちゃ泣いてたよ。なんか、優雅が泣いているのを見て私も泣いちゃった」

「精神を病むまでには必ず過程がある。おぎゃーって生まれた瞬間から病んでる人はいない。大体、赤ちゃんが最初に発する単語はママとか、まんま、とかパパ。生まれて初めて発する単語が『死にたい』の赤ちゃんは存在しない」

「そんな赤ちゃん居たら怖いよ」


 そう言って愛莉は笑った。

 花畑には優しい風が吹いていた。


 ◆


 時折、俺は部屋で一人でいる時に無力感に苛まれることがあった。

 それと将来に対する漠然とした不安もあった。

 自分にはどうしてもコントロールできない領域は常に存在している。それは不確定の未来だ。未来への不安が俺の心には、どうしても存在した。

 芥川龍之介は「ぼんやりとした不安」によって、35歳で生涯を終えた。

 俺は芥川龍之介の作品は国語の教科書でしか読んだことは無いが、気が向いたら彼の作品を全て読んでみたい。

 でも、読まない可能性の方が高い。

 成功者よりも、失敗者から学びを得る方が自分の糧になるからだ。

 有名な成功者の人生よりも、全てを失ったホームレスの人生を俺は知りたいのだ。

 そんな話を愛莉にしたら、


「群馬にはホームレスが少ないね」


 と言った。


「そうだな。俺は今、なんだか心が虚しい」

「薬を飲み忘れてるんじゃない?」

「あ、忘れてた」

「薬はちゃんと飲まないと」

「うん」

「なんか不安だなあ。優雅、たまに情緒が不安定になるから」

「大丈夫だよ。情緒不安定な時は音楽を聴くと、マシになる。音楽は常に一定な存在だから、安心するんだ」

「最近はどんな音楽を聴いてるの?」

「バンドだと、PK shampooとか、山田亮一とアフターソウルとか、syrup16gだ」

「PK shampooは優雅の口から初めて聞いたな」

「夜間通用口とか、超かっこいいぜ」

「夜間通用口ね。聴いてみるよ」

「ああ、おすすめだ。音楽は心の栄養になる」














 ~第8話に続く~

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