ソフィアの事件録1(?)

 この記録はアルゲントのパソコンを借りて(無断で)書いてるよ! ちょっとまとめたいことがあるからねー。それじゃあ今回h


 ……あぶないあぶない、アルゲントが帰ってきちゃったよ。なんとか誤魔化せた〜。

 あ、名乗るの忘れてました! 私はソフィア・クラーク! 最近は世にも不思議な事件を追ってる新聞記者です!

 さて気を取り直して、今回はアルゲントと初めて会ったときのことを書いていこうかな。




 あれは少し前のこと。巷では「首無し騎士」の噂でもちきりだった。ある人の話によると、月が空のてっぺんにある時間に、家の戸が叩かれたので開けると、そこには首のない馬に乗った首のない騎士が佇んでいたんだって。驚いて戸を閉めてその時は何もなかったんだけど、1週間後にその人の奥さんが亡くなられたそうなの。

 それからその「首無し騎士」は夜中に家々を回り、現れた家に住む誰かしらが亡くなっていったことで恐ろしい化け物として噂が広がっていったんだ。

 そんな中、記者として新人だった(今も)私は見事にその噂に食いついた。カメラにその姿を収めようと真夜中に街に出て探し回ってたんだ。

 そしたら、前から人影が歩いてきたの。こんな真夜中に誰だろう? って疑問はすぐに消えたんだけどね。


 なにせ、その人影は近づくにつれ「何か」に乗っていて、人影には頭が無かったから。


 私は思わず息を止めた。

 直感的にまずいと感じて振り返って逃げたことがさらにまずかった。

 その首のない騎士を乗せた首のない馬はこちらを追いかけてきた。どんなに曲がり角で撒こうとしても、見えるはずがないのに正確に追ってくる。

 そして、真後ろから蹄が石畳を打つ音が聞こえた時──


 横の路地から手が伸びた。


 私はその手に掴まれてそのまま路地に引き込まれた。首無し騎士は見失った(この表現合ってる?)のか、そのまま走り去っていった。

 九死に一生を得た私は、その救いの手の持ち主を見た。

 ぼさっとした白い髪に黒いシャツ、作業着のようなズボンを履いていて、それだけなら作業員に見えるんだけど、その人は聖職者が着ているような黒いケープを羽織っていた。


(聖職者? 作業員?)


 そんな感じで混乱していると、「危ない目に遭いましたね、お怪我は?」と話しかけてきた。


「あ、えーっと……」


「ああ、すみません。身分も知らぬ男に加えてこんな状況、混乱しますよね。

 俺はアルゲント・ウォード、今みたいなお化けの専門家のような仕事をしてます」


「わ、私はソフィア・クラークって言います」


「クラークさんですね、それにしてもこんな真夜中にどうされたんです?」


「私、新聞記者なんですけど、最近噂の首無し騎士について記事にしたくて、でも」


 言葉が詰まる。少しの沈黙の後、アルゲントが尋ねる。


「実際会ってみると怖かった、と?」


 首を縦に振る。


「あれはとても危険なお化けだ、何人も死者が出てる」


 アルゲントは立ち上がると「家までお送りしますよ」と提案してきた。

 ただ、なぜかは分からないけど「ここで引き下がりたくないな」って思ったの。


「いえ、大丈夫です」


「え?」


「その代わり、あなたの仕事、取材させてくれませんか?」


 アルゲントは少し困った表情を浮かべると「俺の仕事はすごく危険ですよ?」と警告してくる。


「それでも、このカメラに収めたいんです」




 アルゲントと私は、真夜中の街を歩いていた。


「一般人は巻き込みたくないんだけどなぁ……」


「自分の身は自分で守りますから!」


 アルゲントはため息をつく。

 そうしてしばらく進むと、先程と同じ影を見つけた。




 馬に乗った騎士。少し古めかしいけど、馬も騎士も「首が無い」という斬新さでは逆に時代を先取りしているかもしれない。




「今からあの怪異と揉め事になりますけど、クラークさんは隠れていてくださいね」


 首無し騎士がこちらに気付く。


「え、でも……」


 首無し騎士がこちらに向かってくる。


「隠れて」


 鬼気迫る表情のアルゲントに私は頷くしかなかった。


 そこから起きた出来事は、一瞬のように感じられた。

 向かってくる騎士に対し、アルゲントは懐からリボルバーを取り出した。もうぶつかる! ってところでアルゲントはリボルバーを撃って横に避けた。

 騎士はどこかから鞭を取り出してアルゲントを狙い打つ。それを避けながら"銀の"弾丸を撃ち込んでいった。2発、3発……そうして7発目が撃たれた時、決着がついた。


 6発目までは撃たれてもなんとも無かった首無し騎士。それが7発目が命中した時には、まるで霧のように散って消えていったの。


 不思議な出来事に頭が追いつかなくて、写真なんて撮って……

 いや、何枚か撮れてた。でもほとんど意識してなかったからか、あんまりいい出来じゃなかったけど……。

 アルゲントがリボルバーを懐にしまってこちらに来る。


「大丈夫ですか?」


「えーっと、今のは……?」



「これが俺の"仕事"、です」



 アルゲントと私は、私の家まで歩いていた。

 特に会話もなく家に着く。


「じゃあこれで、おやすみなさい」


 アルゲントが帰ろうとする。


「あ、あの!」


「?」


「もしよければ……これからも取材させてくれませんか!」


 アルゲントは少し考え込む。危険なことに巻き込みたくないと考えているのが想像できた。


「今回のような不思議なことを記事にできれば大スクープになりますし、ウォードさんとしても私が広告塔になれば依頼とか増えると思うんです!」


「わ、わかりましたわかりました」


 私の熱に押し負けたのか、観念して了承する。


「ただし、現場では俺の指示を聞いてくださいよ、危ない仕事ですから」


「分かってますよ! これからよろしくお願いしますね!」



 そうして二人は握手を交わす。片方は笑顔で、もう片方は呆れ顔で。



 ……これが私とアルゲントの出会い。それからもいろいろなミストリーに出会ったけど、それは追々書こうかな!

 というわけで、ソフィアの事件録でした〜!






 なんか俺の席に座ってておかしいと思ったらこういうことか……まあ、消すのも可哀想だし残しておこうかな。なんなら怪異について補足を入れておいてやろう。


 デュラハンは、首の無い馬乗りの怪異である。御者(馬車の運転手)ともされ、実は妖精の一種(悪しき妖精ではあるが)だ。首のない馬に乗る自らの頭を抱えた騎士は創作によく見られる。

 伝承は様々だが、死を予言する存在として死者が出る家に現れる怪異で、ドアを開けて応じると盥(たらい)いっぱいの血を浴びせるという何とも言えない攻撃をする。また、姿を見られることを嫌っていて、見た者は目を鞭で潰されそうになる……とされているが、デュラハンは「御者として(馬に対して)鞭を振るう」としか言い伝えられておらず、たまたま勢い余った鞭が出会った人に当たりそうになり、その人はそれを故意的なものだと受け取った。そこから理由付けとしてデュラハンは「見る」ことのできる人に怒りを覚えるからだ、とされた。


 ……こんなところか。まあ、前の事件は記録にしていなかったし、俺としてもちょうどよかった。これからも不定期ではあるだろうが、書いてもらうこととしよう。

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