010話_世界を変える料理

セリアが皿を見つめ、余韻に浸っていると──


「お、俺にも何か作ってくれ!」

不意に声が飛んできた。


セリアがはっとして振り返ると、そこには──いつの間にか集まっていた団員たちが、焚き火の影からじっとこちらを見つめていた。

羨望せんぼうと食欲と、ちょっとした狂気が混ざったような目つきで。


「俺も! なんか肉で!」「いや、魚の方がいい!」

「俺が先だ!」「俺も食ってみてーよ!姉御ずりぃ!」


一人が言い出すと、堰を切ったように次々と叫び声が上がり、

団員たちがわらわらとジョーに詰め寄っていく。


「えぇっと……」

ジョーが目をぱちくりさせて後ずさると──


「──何の騒ぎだ!!」

遠方から響く、低くて太い声。

セリアと団員たちが振り返ると、

そこには遠出から戻ったばかりの団長──バルト・アストルグの姿があった。


団員たちはわらわらと彼の前に集まり、口々に叫び始める。

「団長! 飯が!」「ジョーがすごいんすよ!」

「料理! 料理が!」「見た目も香りも、なんか高級な感じで!」


「──沈まれ、お前ら!!!」


バルトの一喝が場を制した。野営地が一瞬で静まり返る。


バルトは黙ったまま、ゆっくりとセリアの元へと歩いてきた。

彼女が膝の上に抱えていた空っぽの皿をちらりと見ると、ひとつだけ頷いた。


「なるほどな……」

そして、ジョーの肩をポンと叩き、低く静かに言った。


「──俺にも、一皿いただこうか。」

その瞬間。

「「横入りは卑怯だろ!」」「団長ずるいっす!」

「見損なったっすよ団長ー!」「順番守ってよー!」


再び怒号と笑い声が野営地中に飛び交った。

セリアはその騒ぎを見ながら、小さくため息をつく。


(なんだか……大変なことになったね……)

だけど、すぐ隣で、団員たちに囲まれて困ったような、

それでいて喜んでいるようにも見えるジョーを見て──ふっと笑みがこぼれた。


あの、何を考えているのか分からない無表情で不気味な男が、今や団の中心に立っている。


先ほどジョーの事を否定したライグですら、調理してほしい干し肉を片手に団員達と『誰が先に食べるのか』を真剣に話し合っている。



セリアは視線を空っぽの皿に戻し、ゆっくりと考える。



(もしかしたら──本当に、世界を変えられるのかもしれないな……)



──こうして、なし崩し的にではあるが。

“転生者”ジョーは、白狼団の料理係として正式に迎え入れられ、

 傭兵たちと共に、戦場を旅する事となったのだった。

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