005話_死神の味見

セリアがスプーンを下げようとした時、ジョーはそのまま静かに口を開いた。


「…甘味は…さつま芋?もっと甘い…焼き芋由来か。焙煎ばいせんの香ばしさが最後まで残っている。辛味が全体を引き締めてるが…トウガラシとは少し違う、もっとフルーティーだ、悪くない。それにニンニクに似たパンチが下支えに。だいぶクセのある肉…おそらく干し肉。イノシシ肉?違うな…野性的でいて柔らかい…ニンニクみたいな草がその臭みを打ち消していて──良い、うまい構成。食材の雑多ざったさをという一点で束ねている…」


ジョーは、それまでの無口が嘘のように、

目を見開きながらブツブツと呟きつつ料理の分析を始めだした。


スプーンをもう一度差し出すと、ジョーは素直に口を開け、二口目を受け取った。

「干し肉、火入れが浅い。芯の塩味が舌の真ん中に残る。でも……逆にそれが…魚の肝のようなえぐみ──いや、これは植物系だ。くきか?とにかく何かの苦味を引き立ててる。計算、なのか?」


セリアはやや引き気味に、

しかし興味を隠せないまま、三口目をすくって差し出した。

「いや、その魚っぽいのは…?」

「待って!これは……」

ジョーは言葉を遮り、目を細めてしばし無言になる。


まるで料理の中に世界の仕組みでも見出そうとしているように、

ひたすらシチューと向き合っていた。


「う、生まれとか、異界の事とか……」

セリアが口を挟もうとするが──

「動物性油、使った量は少量。それでも主張が強い。油の種類か?いや……炒り方で香りを抑えた?」


「……あー、もういいよ。全部食っちまえ。ホントに変なやつだな。」

そうぼやきながら、セリアは最後の一口まで淡々とジョーに食べさせる。


しばらくして、静かに息をつき、椀を見下ろすジョー。

「ご馳走さまでした……美味しかった、ありがとう。」


その一言に、セリアは思わず吹き出しそうになってから、ふっと口元を緩めた。

まっすぐな褒め言葉。そして、まっすぐすぎて逆に照れる。


「はいはい、お褒め頂き光栄です、と……さて、それじゃあ質問──」

椀を受け取って立ち上がろうとしたその時、

もう一度ジョーに目を向けると──彼はすでに、深く寝息を立てていた。


「えぇ……もう爆睡?」

セリアは深い溜息をつくと、

仕方なく食器を持って焚き火へ向かい、静かに洗い始めたのだった。

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