及川美香は度々自分の後ろを見ながら、事件のことをゆっくりと話した。話す度、思い出す度に涙を流し震えている。唇は強くかんだ後と、恐怖で血色が無くなり青黒くなっていた。

「話して下さりありがとうございます。でも良かったです、犯人が捕まって。これで事件も解決しそうです」

 そう彼女伝えると、彼女は目を大きく開いて立ち上がった。立ち上がった反動でパイプ椅子が床に強い音を響かせ倒れる。議事録を取っていた女性刑事はびっくりした後、彼女に駆け寄った。

「捕まってなんか、終わってなんかない!あいつはまだ、まだ……」

「及川さん落ち着いてください。ゆっくり座りましょう」

 女性刑事はパイプ椅子を直し、彼女の体を支えながら椅子に座らせた。彼女は顔を真っ青にし震えながら下を向いている。女性刑事が背中をさすり声をかけている間、手元の資料に再び目を通した。

 事件の発生は半年程前。何名もの女性がストーカー及び下着の窃盗、嫌がらせなどの被害に遭っていた。ずっと犯人が捕まっておらず、今回及川美香が警察署に荷物の相談をしたことから犯人の特定に至った。犯人は宅配便の会社で働く男性。狙われた女性の共通点は単身者で犯人と何度か接触していたこと。配達をするうちに目をつけ、怪しまれないように話しかけて親近感をわかせてから犯行に至ったらしい。

 でも及川美香が話す内容と、犯人が話す点には何ヶ所か不可解な点がある。

 自分は顔を上げ、彼女に問いかけた。

「及川さん、最後に一つだけ質問よろしいでしょうか」

 彼女はゆっくりと顔をあげる。

「犯人は荷物なんて送っていないと言っていましたが、及川さんが言う荷物は今どこにありますか」

 彼女は何度か荷物が届いたと言っていた。だが、犯人はそんな荷物一度も送っていないと言っているのだ。知らないの一点張りで、狙い始めた時期も彼女の話す時期とはズレている。

 彼女は肩からかけているカバンからゆっくりと箱を取り出しテーブルの上に置いた。赤い和紙で出来ている、古びた箱だ。所々和紙が剥がれていて、これを犯人が送るなんて少しセンスがないなと思ってしまう。

 テーブルに置かれた箱を手に取る。

「中を確認してもよろしいですか」

 彼女はゆっくりと頷いた。


 中を開けるとそこには何も入っていなかった。小さな名刺サイズの紙が一枚だけ入っている。自分はゆっくりとそれを取り出し確認する。

「中身は、これだけですか?」

 問いかけながら彼女の顔を見た瞬間、声にならない悲鳴を上げた。

 彼女の目は漆黒だった。白目の部分が無くなっており、吸い込まれてしまいそうなほどの闇が広がっている。ケタケタと肩を震わせ、彼女はニッタリと笑いながら言った。

「ありがとうございます。後はよろしくお願いします」



 及川美香は女性刑事に支えられながら警察署を出ていった。先程の笑顔はなんだったのか、思い出すだけでも気味が悪い。彼女から預かった箱は証拠品として警察署で預かることとなった。何も入っては居ないが、一応念の為調べるのだろう。

 報告書を作成しているうちに定時を過ぎていた。外はもう真っ暗で、署内もあまり人が居ない。今日はもう帰ろうと仕事を切り上げた。まだ残っている人に挨拶をし、警察署を出る。

 自宅に向かう途中、ずっと視線を感じる。仕事柄何処かで恨みをかっているかもしれない。気のせいだろうと思いつつ、早足で自宅までの道のりを歩いていく。いつ事件が起きてもいいように、職場からなるべく近いところで探した為自宅までの道のりはあっという間だった。

 自宅のアパート付近まで来て、さっきより一層視線が強くなった気がした。誰か自分のことを見つめている。すぐそこに、何かがいる。

 少し小走りで自宅まで向かう。緊張と不安で走る息がより荒くなっていく。アパートまで来ると、急いで階段を駆け上がりドアの前まで来た。

 息が上がる中、震える手で急いで鍵を開ける。ドアを開けようとすると、ドアの下で何かが邪魔をしており少ししか開かなかった。

 ドアの下には小さなダンボールが置かれていた。ダンボールを手に取り、こんなもの注文していたかとダンボールを見回す。その時ゆっくりと後ろから声がした。


おーい

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