第五風め

『いつか歌になるなら、それは“好き”であってほしい』

_―“好き”を歌にするまでの風は、ちゃんと順番を守って吹いてくれた_



Scene 1|まだ予定のまま、手は重ならない


陽とつむぎが、夏休みの計画表に並んで座る。

すごく自然。でも、ふたりの心の距離だけが、少し足りない。


つむぎ:「このチケット、陽くんが取る?」

はる:「あ、俺が?……つむぎと並びなら、いいけど」

_(……それだけで、十分伝わると思ってた)_

つむぎ:「……うん。わたしも、陽くんと一緒がいい」


→ それだけ。

→ “特別”って、言葉にしなきゃ届かないこともある。

ふたりはまだ、そのことに気づきはじめたばかり。



Scene 2|詩織となぎさ、見守るペア


教室の窓辺。なぎさの隣に座る詩織が、ぼそっと口を開く。


詩織:「あの2人見てると、イライラしてくる」

詩織:「はるくん、ほんと音痴‼️」


→ なぎさ、苦笑しながら麦茶を飲む

→ 詩織、脳内で陽がタンクトップ姿で鼻歌絶唱→「すき〜‼️」→悲鳴


詩織:「ムリムリ‼️ 音痴祓いたい‼️」

→ なぎさの肩をパシンと払う

なぎさ:「……俺、はるの歌好きだけどな」




Scene 3|言葉じゃないけど、伝わってる


なぎさ:「なんかさ、めっちゃ気持ちこもってるじゃん。

だからさ、あいつらなら大丈夫だよ。見守ってればいいよ」

→ 詩織、少し照れながら笑う

詩織:「……そうだね。わかった」


→ 風が教室をふっと通り抜ける

→ 詩織となぎさの背中が、そっとはるとつむぎへ優しい風を送っていた



Scene 4|はるとつむぎ、それぞれの回想


つむぎ視点|深夜の窓辺で手帳を眺めながら


_はるくんは、きっと見てくれてる。

でも、“好き”って言わなきゃ、風は届かない気がしてる。_


_名前呼ぶだけじゃ、もう足りない。

わたしの手のひらがあったかくなるの、はるくんにも気づいてほしいから。_




はる視点|夕焼けの部屋、ギターを弾きながら


_つむぎってさ、名前呼んだだけで空気変わるよな。

それだけで、十分好きだと思っちゃうけど――_


_でもそれって、届かないんだよな。

言わなきゃ。ちゃんと、“好き”って言わなきゃ。_


→ はる、深呼吸して不揃いなコードを鳴らす

→ 窓の外、葉を揺らす風の音が、コードの隙間に混ざっていく

→ その音は、はるの“好き”をそっと運ぶように聞こえた


→ 母の声がふいに響く

母:「あら?……今日は、いつもより上手」

→ はる、笑って俯く


_“音痴”でも、想いを込めたら風になる――

そんな一言が、胸にずっと残った。_



Ending Monologue(つむぎ視点)


詩織の言葉、

なぎさくんの笑顔、

はるくんの歌声。

全部、背中を押してくれてる。


“好き”を言いたい。

“好き”を、ちゃんと伝えたい。


_風にのって奏でるメロディが、合いはじめた。_

_演奏会は、近いかも。

そのステージに立つ勇気を、風がくれたから。_

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