現実〈笑い声〉
静かだった。
本当にこの村で悪魔の気配を感じたのか、疑問に思うほどに。
潰れた家の瓦礫や、近くの森を軽く捜索する
まだ原型のある家は、中に入って直接調べる
使いかけの茶碗、鍋、人形、ノート
生々しく残酷な光景がそこには広がっている
ただ、広がっているだけだ。
悪魔の気配なんか、一切しない。
本当は、なにも現れてなくて、ただの気のせいなのではないか。
見れば見るだけその疑惑は増していくばかりであった。
「…つっかれたあ、」
ついに、たいようが地面に寝転がる。
ひなたが「もお、汚いじゃん」と言って走り寄る
でも、たいようの行動も理解できる。
この直射日光の中軽く1時間強はこの焼け跡の散策だったからである
自分の影の角度も、目に見えて角度が変わるくらいは頑張っていたのだ
流石に私も、そろそろ帰りたいとも思いつつある。
ほんのちょっと前に悪魔を殺すと神に誓った覚えがあるが、その悪魔が手の届かない場所にいるのであれば、話は別なのである
我ながら都合のいい性格をしているな、と思う
いいや、都合のいいように考えをその場でコロコロと変えるようなずるい性格だ
きっとこれは昔から治っていない。
自分でも、自分の本音がよくわからない。
今まで語ることはなかったが、村が燃えて正直喜んでいた自分もいたから。
その瞬間に、私は本当のずるさに気づいたのである。
…「ここは故郷」だから、なんだ。そんなことを語りながらも、燃えた故郷を見て満足している。
そう、満足してしまった自分がいるのだ。
適当に瓦礫をそこらに撒き散らす
今の行動は散策というより“発散”
今感じた自分への不満をこの何の罪もない瓦礫に押しつけておいた
瓦礫を投げた先では砂埃…いや、この辺に砂はあまりないから灰か。
灰が待っている
灰…灰
どくん…
静かだった。
静かに、私の心臓はなにかおかしなものを察知したかのように大きく波を打った。
なんの、なんの違和感だ。
振り返る。
寝転ぶ太陽。それを蹴ったひなた。
ここに違和感はない。
なんだ、この…この胸騒ぎ
「…あくま…?」
勝手に口から出た言葉。
いや、違う。いや…違うこともないか
でも、あの日の悪魔の気配じゃない
でも、悪魔が現れた時と同じような胸騒ぎ
この懐かしさ。
この冷や汗に、乱れる呼吸
「__ひさしぶりだなぁ」
不意に、声がした
上…右、、いや、左…
「仁千椛」
後ろだ
懐かしい
__俺は鬼族なんだ!すっげぇ力強いんだぜ!
__じゃあ、燃やすのはお前のほうだな
__仁千椛ッッッ
「…スゥッッッ」
勢いよく振り返る
この声は。
この声は。
この声は
この声は…!
この声は
私は、叫んだ
「さくまッッッ」
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