始〈平和の終幕〉
朝の日差しが、ゆっくりと木枠の窓を通り抜け、埃の舞う事務所の床を照らしていた。
古びたソファに座っていた太陽が、伸びをしながら言う。
「んー、今日は依頼こないなー。珍しいな、こんな静かな朝。」
「こんな毎日ならいいのにね」
机に頬杖をついたひなたが、まどろむように笑った。
私は黙ったまま、片隅の棚を整理する。手に持っていた薬草の束が、指から少し滑り落ちる。
「…ぁ」
小さく呟きにちかはその場に静かにしゃがむ
今日は、確かに静かすぎる
何か嫌な予感がした。
5年前のあの日
あの日も静かだったんだ
さくまの声はいつものことだが、周りが静かだった
水が滴る音も、虫の音も。葉が揺れる音も軋む音も。
何もかもが、まるで時を止めたかのような静けさを放っていた。
静かに、崖っぷちに置かれている。そんな気分だ
しかしその崖っぷちは自分からは見えない
そのとき。
扉が、コツン、と小さく叩かれた。
ひなたが立ち上がり、扉を開けると、一人の男が立っていた。粗末な旅装に、焦燥のにじむ表情。
「すみません……“仰臥位村”ってご存知ですか?」
にちかの手が止まる。
また、薬草が手からこぼれ落ちる
太陽とひなたがお互いをみて、首を横に振る
『いきなり依頼伝えてくるくらい、ヤバいやつなんすか?』
ひなたが淡々と聞く
男は、黙って、されど部が悪そうに頷いた
空気が、一瞬にして張りつめた。
男は手に持った封筒を差し出した。
そこには短い、しかし不穏な依頼文が記されていた。
『仰臥位村にて、数日前より悪魔の気配を確認。
至急、調査と対処を願う』
ひなたが紙を見つめて眉を寄せ、太陽は「仰臥位村……?」と首をかしげる。
にちかはゆっくりと振り返り、まるで何かが胸の奥で崩れたような、そんな微かな吐息をもらした。
「にちか、知ってるか?」
太陽がこちらを向く
無意識にはやくなった鼓動。
冷や汗。
炎の燃える音
「こ、きょう」
声にもならない出来損ないの言葉だった
「ん?なんて?」
太陽がこちらに一歩、二歩と近づき尋ねる
「仰臥位村は…、私の、故郷…です」
2人の頭の上に『!』が浮かび上がる
私も今、めっちゃ驚いてる
仰臥位村。
私を閉じ込めた鳥籠
さくまを殺した村
仰臥位村で、悪魔といえばあいつしかいない
村を燃やしやがった。
さくまを…さくまを…ッッッ
煮えたぎるような怒り
こんなのは初めてだった
__人間らしくなったな
いつかの太陽の言葉が脳裏をよぎる
人間になる、というのはこういうことなのか
今、私が自覚した以前との明確な違いだ
「…ふぅ」
でも、それを感じるのは今じゃない。
私はそう言ってその感情を冷たく飲み込んだ
「苦しいかもしれないけど、知ってることを話してもらおうか。にちか」
「うん、」
いつか、話すことになるだろうとは思っていた
時は思ったより唐突だった
全て話そう、私の人生を。
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