楽〈これが_〉
「…今日の依頼は?」
小さく尋ねると、ひなたが顔をぱっと明るくした。
「おっけー!今日はね、古道具屋のおじいちゃんの荷物運び!」
「ちょっと重いらしいから、太陽も一緒に行くって!」
「俺は持つ専門な。にちかは軽いのお願いなー」
太陽は大きく手を振って笑った。
──この人たちは、いつもこうだ。
明るくて、他人で、でも…なんだか心地いい。
「わたし…必要、なのかな」
口に出したわけじゃない。ただ、思っただけ。
でも、ひなたがふと振り返って、にちかの手をとる。
「にちかがいてくれると助かるんだよ。ほら、今日も一緒にがんばろ?」
……ああ。
きっと、気づかれてる。
あの頃のことも。私の影も、刺々しさも。
それでもこの人たちは、
逃げない。
踏み込まない。
ただ、そばにいる。
⸻
【夕暮れ、店先のベンチにて】
依頼を終えて戻ってきた夕暮れ。
オレンジの空を見ながら、太陽が笑う。
「なーにちか、今日も顔こわばってたぞ?」
「べつに……」
「まぁ、でも昨日よりマシだな。なんか“人間っぽく”なってきたっていうか」
「失礼な……」と呟いたつもりだったけど、
太陽がくすっと笑った。
「怒った?なら合格」
にちかは、ふっと目を伏せる。
心にまだ澱はある。
あの燃えた村の匂いが、夜になると鼻の奥に蘇る。
でも、
こうして日々を積み重ねている。
声にしなくても、何かが変わっていくような、そんな気がしていた。
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