暗〈__の到来〉
今日も楽しいお話の予定だった。
悪魔。
人の形をしてはいるが、角と黒い翼、歪んだ瞳孔はこの世界の理からは逸脱している。
なぜそんなことがわかるのか。
答えは単純明快、今私の目の前にいるからだ。
「この村はあと三日で、炎に包まれる。……止めたければ、私を倒してみろ」
それは唐突だった
いつものようにさくまの話を聞いて、笑っていた
それだけを告げて、黒い影は闇からこちらへくる。
「ずいぶんわかりやすい脅しだな」
さくまが口元を歪めて言う。
さくまに動揺という言葉はないのか。
「……正直、間違ってない。あんな腐った村、焼かれても文句は言えねえよ」
この村を…燃やす
なんて光栄なことだろう
なんて素晴らしいことだろう
この村は毎日のように私をいじめ、罵詈雑言を吐いてきた。
この世の中にある罵詈雑言は、全て私のために作られたものだと錯覚するくらいに。
そうだ、燃やせば全てなくなるじゃないか
燃やして仕舞えば___
「いやだ」
自分の意思だけど、自分の意思じゃないようだった。
燃やしたい、燃やしたい、燃やしたい…
憎真しいこの村を。
「私はこんな村でも、生まれて……生きてきた。こんな私でも、生きてこれた場所だから……焼かれるの、いやだ」
自分の意思とは真逆のことが、口から溢れる
燃やしてしまいたいのに、こんな村あるだけ無駄だというのに
感情ではない。
ただ、それが自分の根っこにある事実だった。
「……そっか」
さくまが肩を竦めて、にやりと笑う。
「じゃあ、焼くのはそいつの方だな。……おれはお前についてくだけだ」
悪魔が舞い降り、翼を広げる。
その爪先が地に触れた瞬間、空間がひび割れた。
「――じゃあ、始めようか。絶望の時間を」
さくまが前に出て、掌を広げる。瞬間、空気が熱を帯びた。
轟音とともに、燃え盛る炎が火竜のように唸りを上げ、悪魔に喰らいつく。だが、その黒き腕が軽くそれを払えば、炎は霧のように散る。
「ぐっ…」
さくまが顔を歪めたと思うとその瞬間に彼は吹き飛ばされる
――足りない。
「かはッッ…」
洞窟の壁に背中を強打したさくま。
肺から意図せず空気が漏れて、それが声帯を揺らす
「さく___」
そういって、さくまの名を呼びながら駆け寄ろうとした
「…ッ、?」
私は体にとある違和感を覚えていた
体の芯から力が湧き出るような感じ。
でも、使えない。そもそも自分が動くことを妨害してきているような。
頭の中に出てくる単語
漢字1文字、2文字、発音。
誰かが私に囁いているようだった。
懐かしい。そんな声だ
そんなことをしている間にもさくまは身を削りながら戦っている
吹き飛ばされて即座に起き上がったさくまはもうすでに次の攻撃体制に入っていたのだ。
すごいな、単純にそう思う
なんでこんなに人ごとなんだ
私に初めての友達が、必死に戦って、ぼろぼろになっているというのに。
でも今の私じゃなんの力にもなれない
そんな虚しさが私を覆う
“大丈夫。あなたならきっと”
誰かの声が頭に響く
頭、いや、後ろ…上から聞こえたような気もする
“目を…閉じてみなさい。”
だれ?と小さく声を漏らしながら挙動不審に当たりを見渡す
しかし声の主はわからない
私は目を閉じ、呼吸を整える。
賭けるしかない。この不思議な感じに。声に。
心の奥、深く深く沈んだ場所にある、言葉の源に触れる。
「……
瞬間、空間が硬直する。悪魔の動きが、一瞬止まった。
下の水たまりに目をやると、そこにはたしかに目が赤く光る自分が写っていた
「ほう、言霊……か」
低く笑った悪魔の声と同時に、圧が爆ぜる。
封じたはずの空間が、一瞬で弾け飛び、にちかの身体が後方に吹き飛ばされた。
「にちかっ!」
にちかの能力開眼に驚くまもなくさくまは叫ぶ
そして駆け寄るが、悪魔の影が立ちはだかる。
炎が次々に放たれるが、悪魔はそれすら読んだかのようにかわし、逆にさくまの腹に黒い槍が突き刺さる。
「く、そが……ッ」
倒れながらも、にちかの方を見て、笑う。
「お前の言葉で……終わらせろ」
にちかは立ち上がる。血が滲む唇を拭い、再び口を開いた。
「……
重く響いたその一語が、悪魔の手元に走った。だが、またも力負けする。
「――惜しい。だが、お前たちにこの“世界”は壊せない」
倒れるにちか。倒れるさくま。
空に、悪魔の翼が広がる。
「また三日後、会おう。……絶望の火で、村が照らされる日だ」
そして、闇に紛れるように、悪魔は姿を消した。
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