外〈教えてくれた世界〉

最初は気さくで明るく破天荒な少年だと思っていたさくまだが、話しているとあまりそんなことはないんだなと気づき始めた。

薄暗い石の檻の中、私は壁にもたれ、静かに息をついた。

鉄格子の向こう、さくまは床に腰を下ろして、淡々と話しはじめる。


「なあ、にちか。おまえ、空って見たことあるか?」


「……空?」


「そう。上を見上げたときに広がるやつ。青くて、夜には星が散る」


「そんなの、しらないな。」


私は上を見上げる


天井しかない。


「村の外にはな、天井なんてない。果てなんか見えないくらい、広がってる」


私は笑った。

「またそうやって、私をからかってるんじゃないの?」


「信じなくてもいい。でも、ほんとにある。雲も風も、光も、自由も。あそこじゃ、名前を知らないものばっかだ」


「名前を知らない?」


「そう。言葉がなきゃ、目の前にあるものにも意味はつかないんだ。

たとえば、これは“空”。これは“火”。これは“希望”。」


「希望……?」


「言葉ってすげぇんだよ。存在をつくるんだ。名前があるってことは、“そこにある”ってことだ」


にちかはじっと、さくまを見た。焚き火のような目をしていた。

火を灯した人間の目だった。自分とは違う、“外”を知っている目。


「さくま、わたしさ。もし外に出られたら、“名前のないもの”を、見つけられるかな」


「見つけられるさ。そのための目を、おまえは持ってる」


「でも……仰臥位村からは、出られない。わたしは、“この檻”の中で生きるって、決められてる」


「じゃあ決められてないほうに、生きようぜ」


小さな火種が、にちかの胸の奥に落ちた。


「わたし……その、“空”ってやつ、見てみたいな」


「いつか見せてやる。言葉で語るより、本物をな」


さくまの声は、檻の中に響いて、静かに、光のように染みこんでいった。

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