10:機嫌なおしてよ

 今日は、配信をお休みの日だ。最近忙しくなってきて友達と遊んだり、自分でショート動画作成する時間が取れてなかったし……。ダンジョンで得られたアイテムの売買や切り抜き動画で収益を得ていた私にとって、スパチャ解禁はかなり楽にはなってると思うけど……。


「大丈夫だよ、お母さん。ちゃんと、生きてるよ」


一人お昼を食べながら、写真の中で笑う母につぶやく。さて、報告も済んだことだし、今日はひさしぶりにフミんちに遊びに行こうかな。

フミでも金曜ならバイト休みのはずだし......。


「お、返事きた。今日、学校かぁ~」


行きづれー。辞めたところだしなぁ......。

しかも、私の事ちょっと話題になってるとかますます嫌じゃん。

あ、でも3限で終わりなのか。その後ならいいってか。


「おkまる。それで、てんのーじ駅前でおちあお」


フミの好きなキャラの可愛いスタンプが押された。ハートをいっぱい出している。よかった。なんか、この前寂しいって言ってたしな......。よし、今回は私がおごっちゃお!


「よし、着替えて用意するかー」


着替えとメイクを終わらせて、駅へ直行。電車でまたスマホを弄ればすぐに天王寺駅に到着する。やっぱ、この都会感なれないなぁ......。


「お、いたいた。ふみー!」


駅の改札を出てすぐの所の柱に、フミは立っていた。返信してた雰囲気と違って落ち着いている。やっぱり、寂しかったんかなぁ。


「よーっす。有名人、繁盛してっかぁ?」


「やめてよ、フミ。今日はそんなの忘れてさ、少しデートしようよ。お礼もかねてさ」


「へえ。いーじゃん」


なんか、こいつ嬉しいの隠してるな? さては......。

わかりましたよ、お姫様。しっかりエスコートしてさしあげますよ。


「じゃ、まず私のお気に入りのスイーツがあるとこ行こっか」


「ん」


そう言って、私達は駅から少し歩いたところにあるモールに向かった。

彼女の顔がぱっと明るくなる。もしかして、知ってたりして......。


「うちもここ、おきになんだけど!?」


「やっぱ? やっぱ似てるね~。私ら」


「そうなんだけど、そうじゃなくてさ......。もっと、おしゃれなとこがよかった~。デートでしょ~?」


そういやそうだった。

でも、ここの季節限定のフルーツジュースまだ飲んでないんだよなぁ。


「ちょっとだけ......」


と言いながら、私は季節限定のジュースの看板を指さした。


「ちょっとだけだかんね」


そういいつつも、彼女は少し興味を示しているようだった。同じジュースを頼み、私達は少し歩くことにした。デートの場所をみつけるためだ。


「芝公園はどう?」


「暑くない?」


「ほな、ここでええやないか」


「ちゃうねん。おかんが言うにはおしゃれな雰囲気なカフェがあるっていうねん」


「ほな、芝公園かぁ......」


「そうか......」


適当な会話を続けながら、天王寺の芝公園を目指す。

場所に関して、釈然としていないのか、まだ少しだけ拗ねて気がする。


「機嫌直してよ~」


「だって、ちゃんはるがどっか行きそうで......」


「行かないよ......」


「大学はやめたくせに......」


「うっ......」


辞めた理由は、フミには話してない。正直、話したくない......。いや、話せない......。表向きでは自立して働く方にシフトチェンジってことにしてる。間違っちゃないけど。その見え透いた嘘を付き通す私に、彼女は少し呆れている。それでも今も友達として接してくれるフミには感謝しかない。カフェにたどり着いた私は、ようやく彼女の眼を見た気がした。彼女の眼と遭った途端、彼女は視線をスマホにずらす。


「ここ、パンケーキがいいんだって」


「ふーん」


「ちょとちょと、フミさん? 機嫌悪くない?」


「おごってくれるなら、機嫌直すかも」


「わかってるって」


店員さんにパンケーキを注文し、しばらく外を眺める。私を二度見する人、噂して添うな人、たくさんいる。一般でも話題になってしまったもんだから、仕方がない。


「なんか、有名人がいるみたい」


「あんたのことでしょ。今だってほら」


そう言うと、彼女はスマホを見せて来た。そこには、万博ダンジョンでの配信が話題になっていた。”颯爽と現れる都市伝説ハンターその名も『小島よる』” あれ、その名前、どこかで聞いたことあるような......。


「ウチが教えたブログの作者、あの人配信者だったんだって」


「そうだったんだ。名前聞いてなかったから知らんかった......」


「いろんな人に目つけられて、いよいよ有名人みたい。ホントにどこも行かない?」


目の前に差し出されたパンケーキにシロップをかけながら、彼女はにらみつける。


「ここにいるじゃない。ていうか、私のこと放っておかないのはフミのほうでしょ。フミがいなかったら、私には友達がいなかった。だから、ありがとうって思ってる。そんな友達を無下にするわけないじゃん」


「そう?」


「そう......」


「なら、いいや」


そう言って、彼女は一口大に切ったパンケーキを私の口に押し付ける。私はむせながらも、彼女のパンケーキを口に含む。シロップの甘たるさをケーキが背負い、包み込む。


「おいしい」


私も自分のパンケーキをバニラアイスと一緒に、あーんと口を開ける彼女の口に放りこむ。すると、彼女はそっと微笑んだ。


「うん、満足」


ようやく機嫌を直してくれたフミと、私はその後時間を忘れていろいろ話していった。こんなときも、ドーナツはあの洞窟で窮屈なことしてるんだろうな。ふと、思いにふける私に、彼女は何も言わずにそっと背中を押すように手を添えてくれた。

やっぱり、あの人を救いたい。おせっかいだとしても......。







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