近畿・新たな選択編

9:他の廃ダンジョンもめぐろう!

 おじさん、ドーナツさんに振り向いてもらうためにも、私自身配信者としてがんばらなきゃ! でも今は生駒ダンジョンに行くのは、気まずい。他のダンジョンも行ってみるか......。近くにありそうなのは、旧万博公園の地下ダンジョンだ。許可取りは、木下さんが連絡すればすぐに申請してくれるって言ってたし......。よし、送信完了っと。


「了解しましたっす! 申請しました!」


返信はや......。こんな電話でのやり取りで申請できるなんて、今までがどれだけ大変だったか......。運営と仲良くしておいてよかった~。意気揚々とスマホを握りしめて、電車を乗り継ぎ万博公園へと向かう。電車に揺られる中、私のチャンネルを見つめてまたニヤケる。


「うへへ......。2万人に増えておる」


スマホを片手にSNSもリサーチしていると、フミから連絡があった。なんだか、寂しそうな雰囲気の文章だ。でも、応援してくれているみたいだ。本当に彼女には頭が上がらない。返信を考えているうちに、公園前に着いたことをギリギリに気づいて走り出して公園の方へ向かう。これが、太陽の塔か......。でっか......。


『よし。このあたりでいいかな』


ドローンの調子を見つつ、配信の準備を始める。

コメントは待機画面早々、沸き立っていく。


:お、今日は万博ダンジョンか。

:ここでやった万博のころからある古いダンジョンじゃない?

:70年の!? そんな前からあるの?


『いつからあるとかは知らんけど、中世からあるっていう噂もあるよ』


:ほえー

:へ~

:姐さん博識

:そういや、スパチャ解禁まだ?

:申請しておけば?


『ああ、そうだった......。そういや、申請拒否られてたんだった......』


そう言うと、いきなり公式の文章のコメントで「スーパーチャットが解禁されました」という文章が流れて来た。その拍子に、木下さんからの連絡で親指を立てたスタンプが届いていた。


『うわー仕事はっや! ありがとうございます!! じゃあ、探索行ってきます!!』


:がんばれー【¥500】

:お、ほんとに課金ができるぞ【¥1,000】

:やったぜ【¥10,000】

:【¥10,000】

:【¥10,000】


な、なんかインプレゾンビ並みに課金してくる......。こわ......。


『まだ、なにもしてないんですけど??』


困惑しつつ、私はダンジョンの中に入っていった。すると、洞窟の中に不気味な顔をした二足歩行のモンスターがこちらを向いて立ちつくしていた。


『え、なにこれ』


太陽の塔に似た、作品の顔たちが深淵を覗くように私を見つめる。すると、狂ったように体を動かしながらこちらに詰め寄りだす。


『な、なんかやばい!!』


それらは、細くしなる身体を揺らし、こちらを追いかけ回す。


『い、一体何なのよ!!』


:わからないのか? 芸術だよ

:芸術とはなにか、爆発なのだ

:芸術万歳! 芸術爆発!

:リビドーに任せなさい


『な、何言ってんの? あんた達!?』


明らかにコメント欄がおかしくなっている。同じような言葉をバラバラな人たちが呟いている。もしかして、これもあの変な集団のせい?


『もう、しつこい!!』


こちらが鞭で応戦すると、スゥッと直立して数歩下がりだす。鞭の攻撃が当たらない方向に直立のまま移動してる!? 意味がわからん!!


『きも......。でも、なんか心地いいかも』


いやいやだめだ!! 奴の幻覚に騙されちゃだめだ!

あいつらをどうにかしないと!! 


『雷の指輪で蹴散らしてやる!!』


電撃を帯びた攻撃は、彼らに当たっていく。だが、攻撃に反して体力を削っているように見えない。こうなれば、他のリングで!


『光の指輪! 光って、唸れ!!』


光りをスポットライトに見立てて、その集団はバレエのような動きでダンスを始める。そのほとばしる赤や霹靂な青の色どりを持つ顔でエネルギッシュなエントロピーを描いている。......私は、何を言ってるんだ?


『しっかりしろ私! こうなれば闇、闇の魔法で!!』


闇黒の瘴気が立ちこめだすも、その不思議でアバンギャルドな仮面たちは逆に興味を示してその瘴気を使って遊びだす。こいつ、無敵かよ!!


『彼らに遊びを与えるな。規律を持って接しろ! それがアバンギャルドたちの弱点だ』


どこからともなく、声が響いた。すると、きっちりとしたスーツを着た男が走ってきた。


『なに? どこから来たの!?』


『話は後だ! 君も学校に戻ったつもりで、ルールの中で戦うんだ。アバンギャルドはルールや規律を嫌う。では、ここでダンジョン規定第1条を読み上げます!』


『今!?』


そう言うと、彼は分厚い本を取り出した。誰も読んだことのないであろう、ダンジョン界の六法全書。ダンジョン規約だ。


『ダンジョン規定第1条、ダンジョンを探索する者は探索許可証を所持しなければならない。許可証はいずれかの教育機関にて試験を受けたうえで......』


聞いている私も気分が悪くなりそうだ。試験のためにどれだけ覚えさせられたか......。その内容の大半なんてもう忘れているけど......。


『うわ、あの子たちも苦しんでる......。なんか、可哀想......』


だけど、もう追いかけられるのは御免だ。申し訳ないが、退散してもらうしかない。


『ふう、消えたか......。けど、油断するな。戻るまでがダンジョンだ』


そう言って、彼は私の後をついてくる。配信終わるまでついてくるつもり? 今日はコラボする予定なかったんだけど......。


『はいはい、もう終わり終わり!! 解散だぁ!!』


:はっ!? 俺達はなにを......?

:なにか、見たような気がするけど覚えてない

:なんだったんだ。このダンジョン


配信終わりのみんなの様子、普通に戻ったみたいだ。なら、よかったけど......。にしても、このダンジョンなんなのよ......。


「なんなのよ。そんで、あんたも誰?」


いろいろ、ツッコミどころが多すぎる......。


「さすらいの都市伝説ハンター、さ。 またなんかあったらよろしく!」


「あ、行っちゃった......。名前なんてロクに聞けなかった。変な人......」


もう、こんな場所来たくないんだけど......。ちょっと楽しかったから、また気晴らしに来ようかな。


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