11:チームを組もう!
ドーナツホールは、洞窟で生きていた。私もまた、その洞窟にいる。今日は探索が目的じゃなくて、正直いうとドーナツホールさんの勧誘。この間みたいに、また断られるだろうか......。それでも、私は彼にもう一度輝いてほしい。
「見つけた! おじさん! 今日こそ......」
「勧誘はお断りだって、言ったろ」
「わかってる。 一緒に配信してほしいとまでは言わない。 ......夏也さんにはダンジョンの先生になってほしいの」
「教えてなんになる。俺はもう死んでんだ。死人に教わることねえだろ?」
「そんなこと言って、みんなに生存報告したときはすごいキラキラしてたよ?」
「うるせえ。とにかく、俺はもうここで生きるって決めたんだ。ていうか、外の世界に俺の居場所はねえんだよ......」
「何が怖いの? ここより怖いこと、ある?」
「怖い? 外に出ることがか? 俺はここに満足してるだけだ! お前に引っ張り出されるほど落ちぶれちゃいねえ!」
「だからって、ここで暮らす理由ないじゃん。死んだんなら、いっそのこと第二の人生明るく生きればいーじゃん。こんなとこ、いなくってもさ」
「うっせえな。ここがいいんだって、言ってるだろ!!」
その大きな声のせいか、ドーナツさんの後ろから青白いゴーストが押し迫っていた。なんなのよ、あいつ!! 今は......。
「今は、大事な話の途中でしょうが!!」
鞭を大きく振りかぶって、そのゴーストを刻む。光の付与魔法をとっさに付けて正解だったわ。ゴーストは私の腕から入り込んで憑依しようとするが、何度も何度もその箇所に魔法を押し当ててその意思を消滅させた。
「それで......。夏也さんはどうしたいの? ここに残るの? それとも、外に出て自由に暮らしたい?」
「......お前と組めば、外の景色も拝める。そう言いてえのか?」
私は頷いた。この人と一緒に、頑張りたい! キラキラしたい!
「わかった。わかったから......。そう睨むなって。手は組んでやる。だが、あくまでお前の
首を横に振るのをグッと堪えた。彼の活躍する姿を隣で見たいけど、彼が望んでいるのは私のサポート。彼と隣にいれるのなら構わない。
「わかったわ。声は乗るかもしれないわよ? それもだめ?」
「......。譲歩しよう。お前に指示するのにいちいち紙に書いてられないからな」
その顔は私に煽ってるの? 彼をいつしか睨み付けていた。すると、彼はその瞳で睨み返す。な、なによ、えらそうに......。さらに近づき始めると
「じっとしてろ」
耳元でささやく低音ボイスにしびれているうちに、私の後ろで待ち構えていた鎧を腐らせたデュラハンがバタリと倒れていた。
「まったく、こんなにモンスターが湧くなら、配信初めから取っておくんだった」
ドローンを取り出そうと、バッグを探すも何も見つからない。あれ、どうしたっけ......。
「なに探してるんだ?」
「いや、ドローン......」
「そこに飛んでるじゃねえか」
「え?」
ドーナツさんの指さす方へ向くと、そこで赤く光っているドローンが浮かんでいた。
確かに私の......。でも、いつ......。
:<・> <・>
:激熱タッグktkr
:裏方だけど、声聞けるのはお得
:エッモ......(焼死)
:二人が組めば無敵ですね!
『最悪だ......。俺は表出たくねえっつったのに......』
ドローンは確実に私とドーナツホールを映していた。
『やっぱ、こういうのって才能って言う奴じゃない?』
『どういう才能だよ。もうこりごりなんだよ......』
そう言いつつも、彼の顔には少し笑みが浮かんでいた。
『こうなったら、やけだ。このまま配信続けちゃおう!』
『はぁ!? なんでそうなるんだ!』
『いや、もうなっとるが?』
強引に腕を引っ張り、私は行く方向もわからずも適当に前に進んだ。
『おい! そっちはダメだ! 札が見えねえのか!?』
お札......? 腕を引っ張られた拍子に止まると、ドローンが目の前を照らした。瞬間、多くの札が壁に張り付いているのが見えた。
『うわ、なにこれ!?』
『それは俺が貼った。本当にまずい奴らを封じ込めるためにな......。そこは俺でも対処不可能だ。下手に触るなよ?』
『さ、触るわけないじゃない......』
すると、その札の張られた壁を伝ってズルズルと長い手を引きずる一つ目の怪物が現れた。あれは、サイクロプス? 珍しいモンスターね......。
『普通のサイクロプス? なら......』
『ダメだ! そいつの目を見るな!』
瞬間、サイクロプスの顔の眼が増えていく。11個も!?
身体がどんどんと固まっていく。このままだと、石化されちゃう!?
『伏せろ! おらぁ!!』
ドーナツホールはその逞しい腕でサイクロプスをラリアットして、その目をそらした。そして、サイクロプスの眼が開かないように顔面を執拗に殴り続けた。
『え、ちょ......。ちょっと......』
:えぇ......
:こわ
:殺☆意☆
『死ねぇ!』
グシャリとひしゃげた音が聞こえたとともに、サイクロプスは消滅してその眼だけがアイテムとして残った。
『くそ、肉はドロップしなかったか......』
『肉?』
『当たり前だろ。ここで生活するには当然、何かを食らう必要がある。それがただ、この徘徊者だって話だ』
『いやいや、ありえん! 最悪! モンスターはともかく、異形化したよくわからんもん食べるとか......。おじさん、ホントに人間?』
『もう、人間じゃねえかもな。だが、生きてるうちは人間だろ』
そういう彼の笑顔で見せる歯は少しギザギザになっていた。
私は唐突な彼の笑顔に、魅せられて頬を赤らめた。
『さ、さてと......。今日はちょっと早いけど終わろうかな。って、もう1時間くらい配信してたの? じゃ、おつばっちゃ~』
『おつばっちゃ?』
配信を終えて、私は彼と一緒にダンジョンを出ることにした。彼の足取りは少しずつ遅れていった。やっぱり、怖いのかな......。一度離れてしまった現実を目の当たりにしたくないという、迷いの眼があった。それでも、私はぐいと彼の腕を引っ張った。そして、ダンジョンの外に出た。辺りはすでに暗くなりはじめ、星が見え始めていた。
「どう? この景色......」
「悪くねえ......。ただ、俺の家はもうここにはないんだろうな......」
「そうね......。なら私んとこくる?」
な、何を言ってるのよ私......!?
でも、それしか彼を外の世界に引っ張り出してチームとして働くことができない......。これは、建設的な提案! 決して、やましいものじゃない!
「女の家に転がり込めって? 嫌だね。そういうのはもっと大人の余裕ができてから言うもんだぜ。お嬢ちゃん」
そう言って、彼は私の頭を撫でて、またダンジョンへと戻っていった。その背中はとても小さく見えた。
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