2:廃ダンジョン配信を始めよう!
朝が来た。用意を簡単に済ませてJR線と近鉄を乗り継ぎ、石切駅まで向かった。現地にはきっと、前日連絡しておいた運営の人がいるはずだ。山を登っていき、さらに鬱蒼としていく山道を、歩いていくと見えるトンネル。旧生駒トンネルだ。ここで待ち合わせのはずだけど......。
「あ、お待たせしました?」
後からスーツ姿の男が汗をかいてやってきた。とてもめんどくさそうな表情だ。
彼は呆れ果てた表情で、私を見つめる。
「ほんとに行くんすかぁ? 廃ダンジョン配信。 まあ、一応許可は取りましたけど......。あ、すんません。自己紹介まだでしたね。自分、木下っていいます」
「春野椿です。あの、」
「いや、配信名までは結構っす。メールに添付されてたリンクは確認したんで。ただ、探索許可証だけ見せてもらえます? ルールなんで」
「はい、どうぞ」
「おっけーっす。確認取れましたよっと。これ、返しますね。いやー、こんな若い子がこんな危険を冒す必要ないっしょ? メールでも確認しましたけど、このダンジョンは運営の手もなにも行き届いてないっす。つまり、リスポーン機能なし。迷っても死んでも戻れない。それでも進みます?」
確かにメールでも同様の内容の同意書を見せられたっけ......。そこでも揺らいだものの、もう後戻りはできない。
「二言はないわ」
「じゃ、好きにしちゃってください。死んで、悪霊になって呪いにくるなんてなしっすからね?」
「そんなのしないよ。じゃあ、後でね~」
そう言って、私は彼に目を向けずに手を振り、ダンジョンの入口へ向かった。入り口はトンネル内部の中間あたりにあると聞いたけど、このフラフープみたいなのがそうなのかなぁ?
「よし、配信始めるかぁ。ドローンちゃん、カメラとライトお願いね?」
ドローンが私の声に反応して機動した。球体型のドローンはAIで制御されたスラスターを器用に使い、バランスを保ってこちらにカメラを向ける。すると、ウォッチが振動して配信サイトを開き始めた。どうやらコメントが増え始めたようだ。コメントチェックしておくか。
:おつー
:おつばきです
:今日はどこ?
:ここ、廃墟化したとこ?
『おはつば~。探索大好き、ツバちゃんです! 今日の探索ダンジョンは、こちら! 廃ダンジョン、生駒山中ダンジョンの旧生駒トンネルルートです! ここでは、行方不明者や、死亡者が相次ぎ閉鎖されたそうです。廃ダンジョンで一番有名な場所かなと思うんだけど、みんな知ってる?』
:もしかして、ドーナツさん消えたとこ?
:なんか、いろんな人消えてるって聞くけど
:やばいモンスター召喚されてるとかで閉鎖になったとか
『うんうん。やっぱ有名だよね。私もドーナツホールさんの行方不明事件は知ってる。それで興味持って始めたんだよね。じゃあ、中入るね......』
フラフープのような円の紐を触ると、そこに吸いこまれてダンジョンの中に落ちて行く。上下も左右もわからなくなり、気持ち悪くなりそうだった。毎度のことだけど......。ドローンのライトで周りが照らされると、中は過去のままだった。ひんやりとした洞窟の中に、探索者たちの落し物が拾われずに残っている。服や、お菓子の袋など、ごみに近い。それに、ちょっとクサい。
『うっ、なんだろ......。この匂い......。薄気味悪......』
少し残った水たまりが、私の靴を濡らしていく。しまった、長靴履いてくるんだった。にしても、こんなに静かなダンジョンは初めてかもしれない。普段は人とすれ違うことだってあるのに、人の気配すらない。そらそうか......。
『やば......。じゃあ、もう少し奥に向かうね......』
:も、もっと奥に///
:はい、下ネタ~
:やばいモンスターでねえかなぁ~
そのコメントに反応してか、暗い視線の先でダダダッという足音のような音が聞こえてきた。
『え、なになに!?』
瞬間、私の肩に冷たいものが落ちて来た。
『ぎゃああああああ!!! ああ、み、水?』
上を見上げると、なにかこちらを見つめる二つの眼のようなものが光っていた。
「え......。えおああえ!?」
:やばばばばば!!
:きたきたきたきたきた!!!
私はすぐさま、回避行動に映った。その光の根源は私を追いかけた天井から地面に降りて来た。まるでエクソシストのようにブリッジでこちらを追いかけてくる。
「こ、こうなったら!! 私だって!!」
私はバッグから鞭を取り出した。これが私の武器......。ちょっとピーキーだけど、面白い武器で映えるから使っている。
:でた! つばっちゃんの鞭!
:ぶひぶひ!!
「えい! えい!!」
エクソシストもどきは鞭の動きや音に反応せずに静かにこちらへ移動する。き、効いてないの!? むしろ、こっちに向かってくる!!
「ぎゃあああああ!!」
化け物がこちらに向かって叫びだす。な、なんなんだこの声は......!! 急に足がすくんで......!!
「う、うごけ......」
:これやばくね?
:あー、おわりかー
:ばいばーい
その瞬間、奥から静かに人影が私の眼に映った。人影は、一瞬でその気味の悪い化け物を一刀両断した。
「厄介なスクリーム起こしやがって......。なんで、こんなとこに女がいるんだぁ?」
聞き覚えのある口の悪い渋い声。目の前に映りだす、筋骨隆々の身体......。その顔が、私の方に向いた。
「何しに来た、嬢ちゃん」
「ど、ドーナツホール!?」
いきなり、見つけちゃった......。
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