廃ダンジョン配信で伝説の配信者を拾ったんだけど。~無所属底辺の私が最強配信者になっちゃった~

小鳥ユウ2世

近畿・出会い編

1:廃ダンジョン配信ってなに?

「はーい! じゃあ今日の配信はここまで。じゃあ、お疲れした~」


モンスターが騒ぐダンジョンの中、シンと静まるチャット欄。以前はここまでひどくなかったのに......。やっぱり、流行りじゃなくなったからかなぁ? 私はドローンに停止命令出し、スマートウォッチを確認した。自分のチャンネルサイト「探索つばチャン」を見つめる。あ、登録者4桁まで減ってる......。


「ヌルゲーだと思ったのに、ここで壁にぶつかるとは......。面白くなってきたな」


ホントは全然面白いとも思ってない。私の可愛い顔が悲壮のせいか、スマートウォッチに青く映る。すると、突然ウォッチがブルっと反応する。うわ、フミからじゃん。耳につけっぱなしだったイヤホンを通話モードにすると、今にも吹き出しそうな声が漏れ始めてきた。くっ、この笑い上戸め......。


『おつー、ちゃんはる。配信見たよー』


フミは私がDtubeでダンジョン配信してることを唯一知ってる友達だ。教えてもないのに、興味もなさそうだったのに彼女は私のチャンネルを当てて来た名探偵。そして、今では古参ファンかつチャンネル運営を支えてくれる恩人だ。


「なに~? 今、視聴回数低すぎでガン萎えなんだけど?」


梅田にあるマンション型のダンジョンを後にして、最寄りの駅へ歩きながらのフミの会話は高校の時の下校時間を思い出す。フミは大学生になってもあの時のテンション感は変わらない。


「でしょうなぁwwwww でさ、配信のことで耳寄りな事聞いたからウチ来ない?」


「ええー」


「いっぱいよしよししてあげるからさ」


「うーん。わかった」


乗りかけた電車を諦め、別の路線に切り替えて私はフミが住んでいる家の方角に進んでいった。私は堺だけど、彼女は高槻だからもちろん逆方向。電車で30分ほど、駅から15分近く歩いた先のマンションに彼女の住む部屋がある。私はそこのセキュリティーに番号を入力してインターホンを鳴らした。


「はーい」


声だけでは、フミなのかフミママなのか聞き分けできない。私は無難に自己紹介した。


「春野椿です。フミいますかぁ?」


「ぷふ、はいはーい」


ちっ、フミの方だったか......。

自動ドアが開き、そのエレベーターホールで6階を押した。フミは604号室だ。

エレベーターが6階を差し、扉が開いたのでその目の前の604と書かれた猫宮家のインターホンを鳴らそうとした。瞬間、扉がガチャリと開いた。


「ツバキちゃーん! ひさしぶり!!」


「ミサ姐さん? お、お久しぶりです?」


突然、フミのママである猫宮ミサさんが現れて抱き着いてきた。相変わらず若い人だ。いい匂いもする。すると、後ろからミサさんを少し背を小さくした褐色ギャル、つまりフミが出て来た。


「フミ、姐さんいるなら言ってよ~」


私が初めてミサさんと会ったとき、お姉さんといったことが気に入ったのか。ミサさんはかたくなに私から「おばさん」「フミのお母さん」などと呼ばれるのを嫌う。だから、敬意を持って姐さんと呼んでいる。


「ええ~。だって、ママも会いたいって言ってごねるんだもん」


「さささ、ツバキちゃん! 中に入りましょ。お菓子もあるわよ」


「いや、ちゃんはるはウチに用があるんだし......」


そう言って、フミが姐さんを引き離してようやく彼女の部屋にたどり着いた。


「ほんとごめんねぇ、ちゃんはる」


「いいよ。いつもの事だし......。私もミサさん好きだし」


「多分、それママに言ったら喜ぶと思うよ......」


ハハハと笑い、ひと段落した後に私は例の配信についてのいい話について切り出した。


「それで、いい話って?」


「そうだった、そうだった」


フミの膝枕で寝転がりながら、フミが差し出したスマホを見つめる。なにこの「廃ダンジョン一覧」って......。


「なに、この怪しそうなブログ。小島よる?」


「なんか、都市伝説系ってやつ? 知らんけど、有名な人らしいよ。そんで、ダンジョンが廃業後に廃墟化した場所をめぐるっていうことしてるんだって。そういうの、興味ない?」


「戦略としてはいいかも、でも興味ないかなぁ......」


興味がないとかの問題じゃない。行きたくない。そんな怖いところ行く必要もない。


「そうだよねぇ、ちゃんはる怖い系ダメだもんねぇ......。でも残念だなあ。ちゃんはるが行けば、怖がる子が頑張ってる姿を見て応援する人増えるし、もしかしたら未発見のすっごいお宝見つかって一石二鳥なのになー」


シシシとあざ笑うフミの胸をぽよんと叩く。べ、別に怖いわけじゃないし......。お化けとか、いるとも思ってねえし......。 うん? このダンジョン、聞き覚えが......。


「お、気づいた? 生駒山中ダンジョンのこと。 これ、あんたの推しが消えたとこよね?」


生駒山中ダンジョンは、私の因縁の場所ともいえる。私には推しがいた。5年前に消えた「ドーナツホール」という男だ。その人は30代とは思えない渋いルックスと声で、少年のような目の輝きで探険する人だった。プロで、配信体勢も数人いてDtube全盛期の立役者と言っていい。それでも、ダンジョン配信に事故はつきものだ。その人はそのダンジョンで消息を絶った。しかも配信中にだ。突然配信が切れて、画面が黒くなって音もなく消えた。私はその人を追いかけるように、いや......いつか探し出すために探索者になった。そのことを思い出した。


「......」


「ちゃんはる?」


「やるわ。廃ダンジョン配信」


「いいねえ。ウチ、応援してるわー」


「ありがと、やる気出た」


膝枕から静かに起きて、彼女の部屋から出ようとした。


「大学さ、戻らんの?」


彼女の声は寂しそうだった。勝手に辞めたし、気持ちもわかる。


「お金ないと、生きていけないし......。大学いかんくても、なんとかなるっしょ......!」


「でもウチ、やっぱちゃんはるがいないと寂しいよ」


「......。大丈夫、ちゃんとこうやって会いに来るからさ」


「約束よ? ちゃんと戻ってきてね、ウチんとこ! 忘れんといて?」


「なにその関西弁、腹立つ」


呆れ笑いに近いような鼻で笑う仕草でごまかすも、フミの顔は不安げだ。私の顔に死相が出てるみたいな顔で見つめてくる。やめてよ、こっちが不安になる。それでも、私はダンジョン配信が好きなんだ。好きになってしまったんだ。


「まずは許可取りにいかないと......」


フミたちが玄関で手を振るのを見つめ、私は手を振り返して自宅へ戻っていった。













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