第2話
伝説のトナカイ《エクリプス・スノウホーン》登場!
――紅雪訓練場(ブラッドスノー)。
この地で、年に一度の《トナカイ選定試験》が始まろうとしていた。
訓練生たちにとって、トナカイはただの乗騎ではない。
プレゼントを背に世界を駆ける“共犯者”にして、命を預け合う“戦友”だ。
「目をそらすな!心を見抜かれるぞ、ヘナチョコ配達人ども!」
――ラドルフは、その列の最後尾にいた。
彼の視線は、遠くに設けられた檻に釘付けになっていた。
一頭だけ、異様な気配を放つ黒きトナカイ。
赤い瞳、左右非対称の大角、そして氷結のオーラ。
「あれが……伝説のエクリプス・スノウホーン……」
訓練生の一人が声を潜めてつぶやく。
「七人の候補生を殺したってやつだろ?」
「うん。誰にも乗らせなかった。心を見透かし、拒絶する……呪われたトナカイだってさ」
その檻には、近づく者もいなかった。
ラドルフはなぜか、その獣から目を離せなかった。
まるで、魂の奥で呼ばれている気がした。
しかし――その試みは、失敗する。
彼は思いきってエクリプスの檻の前に立った。
だが、ただその視線にさらされた瞬間、全身に走る殺意と絶望的な拒絶の気配に、足がすくんだ。
(無理だ……これは、ただの獣じゃない……)
その場から一歩も動けなくなった彼に、レッドクラッシャーの怒声が飛んだ。
「ラドルフ!何をボケっとしてやがる!戻れッ!死にたくなけりゃ列に戻れ!」
歯を食いしばりながら、ラドルフはその場を離れた。
背後では、エクリプスが鼻を鳴らし、再び眠るように伏せていた。
その夜、雪の中の訓練舎にて。
ラドルフは、焚き火の前で一人きり、薪をくべていた。
――自分は、まだ“運ぶ者”ではないのか?
だが、そのとき彼の隣に座ったのは、意外な存在だった。
同じ訓練生で、無口でいつも一歩引いていた少女・メリルだった。
「エクリプスに拒まれるのは当然だよ。あのトナカイ、グランドサンタしか乗せなかったのだから」
「でも……なんで誰も諦めないんだ?」
「伝説だからよ」
メリルは微笑む。
「でも、伝説は最初から“伝説”じゃない。誰かが本気で向き合った時に、物語になるのよ」
その言葉は、ラドルフの胸の奥に刻まれた。
彼はまだ諦めない。
もう一度、あの瞳を正面から見られるようになるまで――
体も心も、戦士として鍛え抜くしかないのだ。
⸻
◆次回予告◆
「“空中ソリ訓練”開始!トナカイに乗る資格すらない者たちが、極寒の空を飛ばされる。
そして、ある事故が“仲間”を奪う――」
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