第3話



空を走る覚悟――“空中ソリ訓練”開始!


雪嵐が吹きすさぶ標高4,000m地点。

そこに建つのは、サンタ族訓練用飛空台ヘルズ・ルーフ(地獄の屋根)


「説明するッ!本日より貴様らは、《空中ソリ訓練》に入るッ!」

鬼教官レッドクラッシャーの咆哮が、吹雪すら押し返す。


訓練生たちの目の前に並ぶのは、木製ソリ……の形をした、

明らかに飛行機能のない棺桶のような乗り物。


「えっ……これ、飛ぶんですか?」

メリルが顔を青ざめさせる。


「違うッ!落ちるんだよ!!自分の力で飛びやがれッ!!」

レッドクラッシャーは涼しい顔で言った。


トナカイの力だけで、高高度から一気に滑空・突入・贈与をこなす――

それが「空中ソリ戦術」。

過去にこの訓練を生き残った者は全体の約三割と記録されている。


「合図が鳴ったら、順に飛び込めッ!落ちる最中にトナカイと心を繋げて制御しろ!できなきゃ雪の墓だァ!!」


訓練生たちは次々とソリに乗せられていく。

ラドルフはエクリプスではなく、仮配属のトナカイ“ノーマッド”とともに、第6ソリに組み込まれていた。


カチン。


ソリの後ろにトナカイの綱が固定される音が響く。


ブォォォオオオ……!!!


そして、信号弾が雪空に火花を描いた。


「第1ソリ、発進ッ!!」


一機目が崖から飛び出し、まるでトナカイが空を“跳ねる”ように消えていった。


続くソリが次々と発進していく。


「第6ソリ、出撃!!」


ラドルフの番だった。

メリルが横で震える。だが、彼はすでに覚悟を決めていた。


(届けるんだ……いつか、エクリプスと一緒に……!)


「ノーマッド、行こう!!」


ラドルフが手綱を引いた瞬間、ソリは空へと――いや、“地獄へ”と放り出された。


ギィィィィイイイ……!!


ソリは風の唸りとともに地上へ落下する。

トナカイは空中でバランスをとりながら、ラドルフの指示を受けて滑空を始めた。


(いける……! ノーマッド、行けるぞ!!)


だが――


「第7ソリ、異常落下ッ!!」


上空から、悲鳴が聞こえた。

ソリが横転し、制御不能で回転しながら墜落していく。


中には、訓練生のハックが乗っていた。


「ハック――!!」


誰かが叫んだ。だが、間に合わない。


白銀の世界に、赤い軌跡が散った。


その夜。

訓練舎には笑い声も、冗談もなかった。


焚き火の前で、誰もが下を向いていた。


ラドルフはそっと口を開いた。


「……次は、俺たちかもしれない。でもさ、誰かが運ばなきゃいけないんだよな。希望も、夢も……プレゼントもさ」


「だからこそ、飛ぶのよ」

メリルが静かに言った。

「誰かのために、空を選ぶ。それが“サンタ”ってやつでしょう?」


この日、訓練生たちは一人の仲間を失い、

同時に――“空を駆ける覚悟”を得た。



◆次回予告◆


「いよいよ“贈与の儀式”を体験せよ!

訓練生たちは、はじめて“贈る”という行為の重さと、痛みを知ることになる。


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