第3話 苛立ちと後悔

翌朝…


「嘉木〜。そろそろ起きないと遅刻するぞ」


嘉木は驚いて跳び上がる

「っ…うわぁっー!やばい寝過ぎた!って、なんで入谷くんがここにいるの?」


「はぁ?なんでって、ここ俺の家だけど、」


僕は昨日の出来事が勢いよく頭にぶつかってくる

「はっ!!そうだ!僕、…」


「やっと思い出したかよ笑遅刻すんぞ」


そう言って入谷は部屋の扉を閉めた


時計を見ると時刻は8:30

やばい遅刻!!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

キーンコーンカーンコーン


ガラガラガラ


「間に合った!」


入谷の方をみるとニコニコしてピースしている


「嘉木〜遅刻ギリギリだぞ〜?次から気をつけろよ〜?」

と担任の先生が言った


「はい…、気をつけます、」


ホームルーム後


「嘉木。」


入谷が僕の方に寄ってきた


「やっほ、遅刻ギリギリだったな笑。伊南先生に怒られてたし笑」


「もー笑入谷くんがもっと早く起こしてくれれば良かったのに〜、笑」


そう話していると入谷目当ての女子達がジトジトと見てくる


【ギクッ】


「そういえばさ〜嘉木、これから夜、家遊びに来いよ」


「な、なんで?」


「この間言っただろ?夜は絶対俺といろって」


そういえばそんなことを言われた気もする

なぜかは言ってはくれないが、ここは任せた方がいい気がする、、


「分かった!何時くらいに行けばいいの?」


「7時くらいかな…、」


「分かった!行くね!」


そう言って僕は早く入谷との会話を終わらせたかったのに、…


「か、ぎ、くーん」


さっき見ていた女子たちが集団で寄ってくる

こ、怖い、…


「あのねー?入谷くんはあんたなんかに構ってる暇はないの。ね?」


威圧的に女子のグループのトップ柳楽が言ってくる


「う、でも、!」


「あんた最近入谷くんとつるんでるけど、私入谷くんのこと好きなの、協力してくれるよね?」


「そ、そんなこと言われても…」


柳楽はふっと目線を落として、わざとらしく口元を押さえる。


「私…ただ入谷くんと普通に話せたらよかっただけなのに…」


目元には一筋の涙。けれど、その表情はどこか芝居がかっている


「でも最近…入谷くん、嘉木くんとばっかりで……私、悪いこと…したのかなって…ぐすっ」


そう言った瞬間、周りの女子たちが一斉にこちらを睨んできた。


「はっ!?」


まずいこれじゃあ僕が泣かしたみたいじゃないか

 

【ドガンッ】


大きな音と共に入谷が教室に入ってくる


「嘉木!!」


入谷はこちらへ寄ってきて必死そうに見つめてくる

「大丈夫?」


「ぼ、僕は大丈夫、…」

すると入谷は柳楽の方へ行った。いや、行ってしまった


「柳楽さん、大丈夫ですか?なんで泣いてるの?」


入谷の寄り添っている姿に僕は苛立ちと不安の不愉快な感覚があった


今にもそこから逃げ出して、早くその感覚をなくしたかった


【ダッダッダッ】


気がつけば僕は走っていて少し視界が滲んで見えた


(気づきたくなかった、)


気がついたら図書室にいた


「はぁはぁ」


(僕は、…嫉妬してた、)


こんな時に入谷に来て欲しくて、でもどれだけ待っても来てくれないような感じがした


【ザーザー】


雨の音と心臓の音が惨めな自分をより寂しくさせる。


冷たい本棚に額を当てると、自分の体温だけが浮き彫りになるようだった。


雨の匂いが窓の隙間から入り込んで、胸の奥まで冷やしていく。


(前の僕だったらこんな気持ちなんて微塵も思わなかっただろうな…、)



外は雨が降っていて部活は中止となり帰っている生徒が多かった


(あの時、入谷くんが「大丈夫?」って聞いてくれた時に「大丈夫じゃない、、行かないで入谷くん、」って言えば良かったかな…、)


(僕だけの入谷くんって思ってたのに、…

いや、それはわがまますぎるか…)



誰か来る、

【ドタドタドタ!】


―入谷side―


【ガラガラ】


「嘉木、!」


図書室に入っても人の気配がない


「ここじゃないのかよ、、」


(嘉木、ごめん。)


「嫌われたかな。そりゃそうか、」


(あの時、俺が「大丈夫?」って聞くんじゃなくて、「行こう!嘉木!」って聞けば良かったな、)


「失敗したな…」


(もう探し尽くした。最後の希望で図書室を探したのに、…)


「どーしてこんなカッコわりーのか」


図書室の椅子で倒れ込むように座る

(疲れたな)


【キラキラ】


(ん?あそこなんかある)


拾って見ると『嘉木誠人』と名前が書かれたシャープペンシルだった


はっ、!


(あそこに落ちてたって言うことはさっきまで嘉木がそこにいた。もう帰ったのか、)


「今更だよな…、」


今追いかけたところで俺はうまく言えずに嘉木を傷つけてしまうかもしれない


傷つけたくない


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



俺は中学の時同じ部活の先輩からいじめられていた


俺は最初部活に入った時、先輩達は何事にも一生懸命で優しくて強かった


そんな先輩が好きだった、

恋していた


先輩のためなら何でもやってたし尽くした

優勝できるように努力もした


ある日、


「なぁ優利。変なこと聞いてもいいか、優利って俺のこと好きなのか?」


「はい」

俺は覚悟をもって返事をした



「よかった。俺も好きだ」

先輩はクシャっと笑いながら言った


最初は恋人のように接してくれて楽しかった


だけど


「なぁ、優利。今度友達と遊びに行くんだけどお金くれない?金欠でさー」

その日は先輩の目が笑ってなくて怖かった


「え、?すいません。俺も金欠なんですよ」


「はぁ?なんだよ優利、口答えすんのか?金かせってって言ってんだよ」

先輩の目がどんどん黒くなっていった


「す、すいません。貸しますね、、!」


俺は恐怖心で泣きたくなった


先輩からの絡みは多くなった

殴られて全身傷だらけになる日もあった


俺はそんな先輩からのいじめから脱却するために転校し逃げた


どちらかと言えば、いじめではなく、良いように利用されていただけなのかもしれない


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そんな過去があることを悟られるのが怖くて俺は高校で上手くやれるように明るく振る舞い気も使い、みんなのために尽くした


疲れて今にも倒れそう。そんなある日、図書室にいるクラスメイトを見つけた


「入谷、だっけ?」

彼は話しかけるなと言わんばかりに、独特な雰囲気を放っていた


頭がガンガンする…視界がだんだんと黒くなって立っていられなくなった、

「そ、そうですけど…。なにかありまし、、、


【バタッ】


「ちょっと!!あの!大丈夫ですか?」


意識が朦朧としてながらも

入谷の手が俺の頭を撫でている感覚があった


とても落ち着いて安心ができた


こんなに安心ができたのはいつぶりだろうか


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


俺はあの時から好きだったんだ。

入谷のことが、、、


もう昔の自分みたいにはなりたくない。

怖くても逃げずに、気持ちを伝えたい。


あの時、壊れそうだった俺を、ただ黙って撫でてくれた、、、入谷を失いたくない


追いかけたい

入谷がどれだけ俺を嫌いになってしまっても


その謎の感情に振り回され、俺は無我夢中で追いかけた

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