1.飛び出す図鑑の謎
(1)
「凌ちゃん、今日もここで待ってるね」
「おう!」
所属しているサッカーチームのユニフォームを着た幼馴染の
稜のサッカーの練習が終わるまで大好きな本を読むために図書館に行くのが、碧の土曜日午前中のお決まりのコースだ。
これは、碧と稜が碧の母親と交渉して勝ち取った結果だ。本当はいつでも時間があればふらっと図書館に出かけたいけれど、本に夢中になると周りが見えなくなる碧を心配して許して貰えなかった。しかも何時間も図書館いる碧に毎回付き添うのが大変だと言われたことを稜に愚痴ったら「じゃあ、俺のサッカーの練習中に行ったらいいんじゃね? 練習終わったら、碧を迎えにいけばいいしさ」と言って、しまいには母親に交渉までしてくれたんだ。
(ほんと、稜ちゃんて男前だよね)
ふふふとあの時の任せておけば大丈夫っていう安心感たらすごかったな、と思い出してニヤけてしまう。本を読むのが大好きで運動音痴でインドア派の碧と、リーダーシップがすごくてアクティブで運動能力が抜群の稜は家が隣同士の幼馴染みで性格も行動も真逆だけど、生まれた日も一日違いでなんだかウマが合って物心ついたときから仲が良い。稜が碧の面倒を見てくれているっていうのが正しいのかもしれないけれど。
(わぁー、涼しい)
図書館の自動ドアを抜けると、クーラーの涼しい風と共に紙とインクの匂いが漂ってきた。これこれ、これだよ! と、碧はメガネをクイッと上げる。
今日も楽しめそうだと、気持ち早足で本棚の方へと向かう。図書館は分類ごとに棚が分かれていて、以前係の人(司書さんと言うらしい)に聞いたら日本十進分類法で分けているって言っていたけど、難しいことはよくわからないから図書館にある検索端末で興味がある内容の本のありかを調べてその棚に行くようにしている。
「今日はどうしようかなぁー」
最初に検索端末に行くか、必ず寄るお気に入りの棚を確認しにいくか……。足を止めて最初に行く場所を考える。
「今週も来たの? 熱心ねー」
行く場所を悩んでいた碧は顔を上げて、声を掛けてくれた人の顔を見ると、いつも貸し出し作業をしてくれている優しそうなおばさんだった。
「あ、こんにちは」
「こんにちは。また高い場所の本が欲しかったら取ってあげるから声掛けてね」
「はい」
身長が143センチしかない碧は一番上の本は台の上に乗っても取れないから、係のおじさんやおばさんに声をかけて取って貰っている。しかも、毎週同じ時間に来ているから係の人と顔見知りになっていて今のように見かけたら声をかけてくれる。だからとても居心地が良いし、快適なのだ。それに、つい時間を忘れて本に没頭していても稜が迎えに来てくれるから問題ないし。
(やばい。もう9時15分だ!)
時計を見たら稜と別れて20分も経っていた。迎えに来るのが11時半くらい。こうしてはいられないと、検索は後ですることにして目的の場所に向かって歩き出した。
図書館は、新しいものから古いものまでの宝庫だ。家にも本はあるけれど、お小遣いやお年玉、誕生日やクリスマスプレゼントに買って貰ったりするけれど、「本棚に入りきらなくなるからほどほどにしなさい」って言われて、最近は買うことを控えている。だからこその図書館なのだ。
(今日は何を借りていこうかなぁー。やっぱり図鑑だろうか。もう少しで夏休みだし、自由研究のテーマも考えないとだし)
歩きながら百面相をしていると誘われるようにいつも寄る場所、図鑑が置かれている棚までやってきた。
新しい図鑑が頻繁に発売されることはないけれど、なんていうかこの知識欲をかき立てられる感じが好きでたまらない。小さい頃から知らないことを知るのが大好きだった。今でも両親に苦笑いをされるのだけれど、二歳後半くらいから「なんで?」「どうして?」攻撃が止まらなかったらしい。お昼寝や夜に寝て静かになったときには「なんで攻撃が終わった」と魂が抜けたようにグッタリしたそうだ。しかも、頭が良くなるようにと本を買い与えたら余計に酷くなったと、困った顔をして教えてくれた。自分のことながら小さい僕が迷惑かけてごめん、としか謝れないけれど。
そのおかげで本は今でも好きだし、今は自分で出来るだけ調べるし、インターネットという強力な味方もある。インターネットで文字を入れたら一瞬でたくさんのことを教えてくれるけど、それでも本で調べるのが一番好きだ。自分から見つけに行かないといけないっていう不自由な部分もいいんだよね、と思っていると、目的地に着いた碧は、そびえ立つ本棚を見上げた。
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