ぼくたち、アニマルサポーターズ!!~好奇心は超大型ネコを救う~

佐波にこ

プロローグ

プロローグ

「本当に大丈夫かのう……」

 ガッチリした強そうな見た目とは似つかわしくない弱々しい声で、ケルヌンノスはつぶやいた。

 狩猟の神だけではなく獣の王としても君臨しているケルヌンノスが現在直面している問題が「眷属たちの種族消滅」だ。

 この世界を創造神が作り上げてから地域ごとに様々な神が生まれ、その神たちにつかえる眷属も生まれた。ケルヌンノスの第一眷属は牡の鹿だが、他の動物たちのをまとめる王でもある。自分の子供のように成長を喜び、数万年をかけ地殻変動や気温の変化により動物たちも新しく生まれたり、消えて行ったりした。悲しかったが、それは自然の摂理だからしかたがないと割り切っている。けれど、最近は違う。

 創造神が生み出し、独自の発展を遂げている人間が動物たちを私欲のために殺したり、排除をしている。人間を脅かす存在ならまだしも危害を加えることがない動物たちの縄張りにわざわざ入り行っているのだ。世界への干渉を禁止されているといっても、このままだと子供のように可愛がっている眷属がいなくなってしまう。

 禁忌を犯して人間を消滅させたら眷属を助けることが出来るのではと思った。それを妻に相談をしたら「動物を守るために人を消滅させるなんて邪神にでもなるつもり? 自分の欲のためなら何を犠牲にしても構わないって神として最低ね」と、ここ数ヶ月話をしてもらえてない。それどころか汚いものでも見るような目を向けてくるのだ。

 人間を消滅する以外の方法を考えないといつまでたっても仲直りが出来ない。ご飯も作ってもらえず、今は自ら狩りをして肉を味付けもせず焼いて食うという生活をしているし……。

 どうしたものかと頭を悩ませていたケルヌンノスに、ちょうど五年ぶりに全世界神様連合会議を開催するという招待状が届いたのだった。


「これはなんという巡り合わせ……」

 絶好のタイミングだ、と喜んだ。

 全世界の神が集まれば、いい知恵を出してくれるかもしれないと思ったケルヌンノスは、全世界神様連合会議に議題としてあげた。様々な場所から集まった神は、真面目な神もいれば適当な神もいる。大きな声で言えないが、風の女神アウラは駄女神だめがみの筆頭だ。目の前のお菓子をムシャムシャと食べていて、お腹いっぱいになったらうとうとしだして居眠りをしだす。こんなことなら会議に参加せずともよかっただろうに、と思いながら、いい案が出るのをいまかいまかと待っていた。

 けれど、全くと言っていいほど解決策が見つからないまま時間だけが過ぎていった。なにも得られないまま終わるのか、と肩を落としていたケルヌンノスだったが、討論打ち切りの三時間前に駄女神のアウラが「ねぇ、ケルちゃん。アマテラスちゃんにお願いしてみなよぉー。ノーと言えない日本の神様なんだから」と、クッキー片手に面倒くさそうに言った。

 きっと長い会議に飽きたのだろう。神にお願いするだけで解決したら苦労はしない。ケルヌンノスだって神なのだ。解決策が自分にもないのだから、神頼みだけでどうにかなるわけがない、なにを言ってるんだと呆れる。

 急にアウラから名指しされた天照大御神あまてらすおおみかみは、目を見開き驚いた顔をして「なっ! なぜそんな適当なことを言うのだ、アウラ。我は、何でも屋じゃないのじゃ」と憤っていたが、最終的には全ての神に「勤勉で真面目だし、どうにかしてくれるでしょ。天照大御神のところに住んでいる子たちなら。君に似て優秀な子たちばかりだもんね」と褒められ嬉しくなった天照大御神は、「し、しかたがないのじゃ」と承諾すると、上手く丸め込んだ神たちは、口の端を上げてニヤリと笑って「よかったぁ。これで帰れる」と会議が終わることにほっとしたのだった。 

 こうしてとりあえず天照大御神が治めている日本人に助けてもらうことになった。人間の手で眷属が少なくなっているにもかかわらず、助けを求めるのも人間。皮肉な話だ。けれど、神が世界に直接手を下すことは禁止されている。だから、間接的に助けてもらうためにはどうしたらいいかを考え、天照大御神と相談をしてようやく形になった。それに、頻繁に天照大御神とやりとりしていた様子を見た妻が嫉妬心丸出しで久しぶりに口を聞いてくれたという嬉しい誤算もあった。

 天照大御神から勤勉な人間は本をたくさん読むとアドバイスを受けたケルヌンノスは、本に神の力を封じ込めたものを仕込み、図書館という施設に置くことにした。


 良い気が巡っているというオススメの図書館という本が大量にあるという施設へやってきたケルヌンノス。

 神の力を封じた本を亜空間から取り出し、空中に浮かせた。

「これが、我の眷属を生かすための手段。上手く事が運んで欲しいものだ……」

 行動力がある者、勤勉な者、優しい者……たちの手に渡るように念じる。

 人間は欲深い生き物だというが、我々が創った世界に生きるものとしてそれだけではないということを信じたいし、そうであって欲しいと願う。祈りを捧げた本は、すーっと本棚の高い位置におさまった。

「この本が導く者に大いなる加護を」

 そういうとケルヌンノスは、図書館から消えたのだった。

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