第5話 Side:教皇
「なにかが、おかしい。」
ビロードをメインとした室内で、ソファーにどかりと座り込んでいた小太りの初老の男性がいた。
その人物は、この大聖堂を取り仕切る教皇である。
教皇はその顔に不安の色を僅かににじませていた。
一週間前に聖女サラス・ヴァーティを大聖堂から追い出した教皇は僅かな違和感を感じていた。
以前から孤児なのに聖女とは……と、どうサラス・ヴァーティを大聖堂から追い出そうかと教皇は頭を悩ませていた。新たなる聖女ライラ・ハーンが誕生したため、これ幸いとサラス・ヴァーティを教皇は追い出した。
教皇は血筋を第一に考える人間であった。
そのため、例え神の加護を得ていると言えども、どこの誰の血を引いているかもわからない孤児であるサラス・ヴァーティのことを受け入れがたかったのだ。
そこにきて、由緒正しい伯爵家のライラ・ハーンが神のご加護を得たと連絡があった。
神のご加護を得る者が同時に2人以上存在するのはとても珍しいことだった。ゆえに、教皇は少々不思議に思ったが、2人以上大聖堂に聖女がいなければ問題ないだろうと、サラス・ヴァーティのことを嬉々として追い出したのだ。
「……信者からのお布施の量が明らかに減っている。」
サラス・ヴァーティを追い出してからというもの、報告される信者からのお布施の量が目に見えるほど明らかに減ったのだ。
信者の人数についてはほぼ横ばいであるのに対して、お布施の量が明らかに減った。
誰かがこっそりと横領しているのか、それとも単純に信者たちからのお布施が少なくなったのか。
信者からのお布施が少なくなったのなら、その理由はなんなのか。
教皇は思いを巡らせる。
「誰かおらぬか。」
早急に調べなければならないと、教皇は人を呼んだ。
これ以上お布施が減る前に原因を究明しなければならないと、教皇は焦った。
何故ならばお布施の一部は教皇のものになるからだ。取り分が減ってはならない。
「はい。ここに。」
教皇が呼べばすぐに一人の白いローブをまとった司祭が姿を現した。教皇の部屋の前で呼ばれたらすぐに対処できるように待機していたのだ。
「最近、お布施の量が減っているように思える。調査してくれぬか。」
「……はい。かしこまりました。」
司祭は少しの間の後、教皇に向かって恭しく一礼してすぐに教皇の部屋を後にしたのだった。
残された教皇はワイングラスを片手に思案顔で窓から空にかかる月を見上げた。
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