第4話






 街をぶらぶらと散策していると、あることに気づいた。

 どのお店も代わり映えがしないのだ。

 宿屋だけかと思ったが、パン屋で売っているパンも食パンかロールパンだけで、それ以外のパンがない。

 試しにパンを買ってみたが、味もどのパン屋でもそれほど違いがなかった。

 まるで同じレシピを共有しているのではないかと思うほど、味に違いも見た目に特色もない。

 小物売りも同じだ。

 どの小物売りも同じような物を売っている。

 例えば、髪飾りは木で出来た物が主流でデザインは3パターンほどしかない。どの小物売りでも同じだ。

 木に色でも染めてあればまた違うのかもしれないが、色も染めておらず木本来の色のみだ。

 洋服屋も同じような状況だった。

 いくつかのパターンはあれど、どの店も代わり映えがしない品揃えだ。

 髪飾りやパンほどは酷くないが、あまり変わった服は存在しないし、ほぼ生なりの生地でできている。

 活気はある街なのに、各店の特色がない不思議な街だった。

 外国からの輸入品を取り扱っている店は一軒だけあったが、こちらは閑古鳥が鳴いていた。売っている物の値段を見ると、輸入品だけあり、値段が高いのだ。

 珍しいから値段が高くなるのもわかるが、どうやらこの街の人たちは見向きもしないらしい。

 

「あの……私は隣国から来たのですが、この街では皆同じものしか売ってはいけないのでしょうか?」


 見ているだけではわからないので、まずは種類が圧倒的に少ないパン屋さんに目を付けた。

 

「同じじゃあないよ。ほら、食パンにロールパン、二種類もあるだろう?」


「えっと、他のお店も食パンとロールパンしか売っていなかったので。味もどの店も同じレシピで作ったように同じでしたし……。」


「ああ、同じレシピを共有しているからね。」


「えっ……。」


 パン屋の女主人の言葉に私は驚きを隠せなかった。

 同じレシピを本当に共有していただなんて。

 

「た、例えばですが、クロワッサンなどは売っていないのでしょうか?」


「クロワッサン……?なんだい、それは?」


「えっと、じゃあブドウパンは?」


「ブドウパン?初めて聞いた名前だねぇ。」


「それじゃあ、サンドウィッチはどうでしょう?」


「……サンドウィッチ?それもパンの一種なのかい?名前からは、想像もできないねぇ……。」


 他のパンの種類をいくつか挙げてみたが、どれも女主人は知らないと首を横に振る。

 私はあまりの衝撃に思わず口をポカンッと開けてしまった。

 

「そうさねぇ。今、お前さんが言ったのはパンの名前だと思うけれど、私はここにある食パンとロールパン以外を食べたことはないんだよ。たぶん、他の店の主人も同じことを言うと思うよ?」


「そ、そうなんですか……。祖国ではいろいろなパンの種類があって、お店ごとに商品も味も違っていたので……。」


「そうかい。まあ、見てわかるとおりこの街はあまり裕福とは言えないからねぇ。凝ったパンは見向きもされないと思うよ?」

 

「そうですか……。」


 確かに街を見回すと皆同じような服を着ており、アクセサリーなどはほとんどしていない。

 カバンも生なりの生地のカバンだけだ。

 家も同じような質素な家が立ち並ぶばかりで街の人々の活気とは反対に、落ち着いた雰囲気を漂わせている。

 

「あの……以前からこのような雰囲気だったのでしょうか?」


「そうだねぇ。私が子供の頃は……もうちょっとマシだったような気がするけれど……どうだったかしら。」


 パン屋の女主人はそう言って考えこんだ。

 思い出せないほど幼い頃の記憶なのだろう。

 女主人の正確な年齢はわからないが、40歳は超えていると思うから少なくとも40年近くは前からのことなのだろう。

 

「そうだわ。私の母に聞いてみようか。母ならもうちょっと詳しく知っているかもしれないから聞いてみたらどうだい?」


 そう言ってパン屋の女主人のお母さまに話を聞くことになった。

 

 


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