第3話 「可愛いの定義」


抜糸もした


カラーコンタクトを初めて買った


化粧品も新しくした




憧れのあの子になってみたくて



「私についてる脂肪、要らないよね。」




「中本さん…脂肪吸引どこに施しても

もう貴女は標準体重です。」



「いや、二の腕がありますよね。」



「これ以上は無理ですよ。」





クレジットカードもきちんと払って

限度額は100万を超えた。



裏仕事も辞めて、認められたいから

昼のお仕事、ちゃんと就いた事がないけれど



キャバクラデビューをした。



「中本様…ですね。


時給は…6,000円からスタートしてみましょうか。未経験というのもあって、揃えるものはこちらで貸し出しますので。」



「…キララって女の子、いますか?」


「え?居ないですけど…どうされました?」


「源氏名、キララにしたいです。」




「笑顔に似合いますね。」



その面接官は、本当の事を言ったのだろうか?

反対だったのだろうか?




分からない。




「キララ」



なんで、この名前かは分からない。ただ目立ちたくて。


でも完璧な私ではない。


どこも、完璧じゃない。


話術も、身なりも、化粧だって半端。



だけど、目立ちたい。

私は、変わりたい。



中本から、変わりたい。





「可愛いとは」愛されること?

「可愛いとは」可愛がられること?



分からない、わからない、ワカラナイ



いつの日か、不安障害で眠れなくなり

不眠症になり、暇になれば物を食べて

嘔吐を繰り返す摂食障害。




はい、メンヘラの出来上がりだ。



幸い、腕は切ったりODなんてしない。

だから、キャバクラは大丈夫だった。



ただ、不安定になると薬をかじる。


「あ…レキソタン…」


不安で薬の名前が出る。


ボリボリとかじり、私はメイクをする。




ピロン、ピロン、と携帯が鳴る。


「この細客、また同伴してもアフター狙いだから切ろう。」


「この人はシャンパンなんだかんだ、入れてくれるんだよなー」





なんて、見定めがついていた。


特別な人は作らない。




私はみんなにとっての特別じゃないから。


特別でいられる時が来たら、いいな。





完璧な可愛さでいられるのにな。



「…なんて。」



エアコンを効かせて、化粧をする。



顔面工事は無事に成功。

時給6,000円が安かろうと知らない。


私は私。愛されたい、キララ。




「…涙袋は、もう自分で作る時代だもんね」


ヒアルロン酸ガッツリぶち込んだナメクジのような涙袋も、しぼんできた。


自分でとにかく「可愛い」を作る。



「唇はー、上に黒い影を置いてー。」


SNSで収集した、活かした

できる事は自分でやりたい。


お金かけ過ぎたかな?



気づいたら、クレジットカードの上限は

300万まで簡単だった。



稼いでるから、返せるし。


「ウケる、1人でマウントして」



今どき、稼ぐ方法なんてある。


だから、私は負けたくない。


努力してきたはず。

整形も努力。


ズブズブにハマっていた。

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