第3話 亡命都市・釜山

釜山駅を出ると、潮の香りとともに張り詰めた空気が山本を包んだ。

目指すは、旧日本軍が残したとされる釜山通信基地跡。

いまは民間の倉庫群に紛れて姿を変えているが、韓国情報機関の一部が密かに利用しているという。


山本はその近くにある古書店を訪れた。表向きは店だが、裏では元情報将校たちが隠れ住む「亡命者のアジト」だった。


そこで出迎えたのは、白髪交じりの男、カン・ジュンホ。

元・韓国国家情報院(NIS)の暗号解読官だったという。


「ハン・ギュテが“亡国計画”を動かしている……お前がそれを信じるなら、今すぐに釜山を出るべきだ」

カンは警告した。


山本は答えた。

「俺はかつて、ギュテに“仲間を裏切らされた”。今度こそ、終わらせるために来た」


カンはしばらく黙っていたが、やがて小さな紙片を差し出した。

「釜山通信基地の地下には“氷室”と呼ばれる部屋がある。国家機密を“冷凍保存”する場所だった。ギュテはそこを狙っている」


その夜、山本は釜山港近くの倉庫街に潜入した。

だが、すでにチョンム会の武装部隊が動いていた。

銃声が闇を裂き、山本は壁際に身を隠す。


彼の耳元で、通信機がかすかに鳴る。


──「こちら草間。東京の公安が傍受した。“8月15日午前5時、独島にて亡国計画を全世界に公表する”とハン・ギュテは宣言している」


山本は短く息を吐いた。

「つまり釜山は陽動だ。――本命は、独島(ドクト)」


そして山本は、韓国軍の非公式協力を得て、独島へと向かう。


荒れ狂う海を越え、国境の島へ。

そこには、韓国のアイデンティティと、日本との緊張が幾重にも絡みつく、

最後の戦場が待ち受けていた。

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