第2話 亡国計画

東京・新大久保の古びた雑居ビルの屋上。

山本耀は、高校生・ユ・スンホと向き合っていた。


スンホは警戒した目をしていたが、山本の静かな語気に押され、ようやく重い口を開いた。


「……俺の父は、韓国の諜報員だった。でも、十年前に『亡国計画』を漏らした罪で粛清された」

「それ以降、母と俺は“チョンム会”に監視されながら、日本で暮らしていた」


山本は無言で話を聞いていたが、「亡国計画」という言葉に反応した。

それは、かつて山本が韓国での任務中に一度だけ耳にした、国家転覆を目的とする極秘文書の名前だった。


「お前は、その計画を知っているのか?」


スンホはノートの一部を山本に手渡した。そこには、ハングルと英語が混ざった暗号文が書かれていた。


《기억하라 – 釜山通信基地 – 8月15日 – 独島》

(訳:記憶せよ——釜山通信基地——8月15日——独島)


「次の爆破は、韓国だ」

山本は呟いた。


その夜、山本は草間公安捜査官に連絡を取り、密かに韓国への渡航手続きを進めた。

釜山——そこが、次なるテロの起点であると確信したのだ。


だが出発直前、スンホの母が何者かに連れ去られるという知らせが入る。


拉致現場には、一枚の写真が残されていた。

そこには、数人の男に囲まれたハン・ギュテの姿が写っていた。


「これは、挑発だ」

山本はコートの内ポケットにノートをしまい、静かに言った。


「戦争は、もう始まっている」


その翌朝。

山本耀は、一人、韓国・釜山の地に降り立つ。


そこは、古くから国家の影が交錯する、情報の戦場だった。

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