第8話 探偵の過去

薄暗い居酒屋の片隅で、山本は一人静かに酒を飲んでいた。

グラスに揺れる琥珀色の液体を見つめながら、彼の心は遠い記憶へと引き戻されていた。


数年前、まだ若手だった頃の山本は、似たような事件に関わっていた。

ひとりの少年がいじめに苦しみ、声を上げることなく命を落としたあの夜のこと。


「僕が彼の声を拾い上げられなかった」

山本はその痛みを胸に刻み、探偵としての道を選んだのだった。


あの時の無力感が、今も彼を動かしている。

「もう二度と、無垢な声を見殺しにしたくない」


山本の目は鋭く光った。

「田中翔太の事件は、僕にとって単なる仕事ではない。救えなかったあの少年の代わりに、真実を掴む」


彼の決意は揺るがなかった。

この街の静かな闇に、必ず光を射し込むと。

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