第18話 院長の罪

「……自馬院長もな、」

副社長・品川は取調室で、ぽつりと続けたらしい。


「簡単な手術だからって、オペの経験を積ませるために息子に任せたんだ。……だが、その息子は……前の日に飲んだくれてた。酒が残った状態で、うちの娘を……」


そこで、品川は言葉を詰まらせたという。

数秒の沈黙の後——


「それで……娘は……」


医療ミスだった。

だが病院は、正式には認めなかった。


「医療ミスは認められない、ってさ。

結局“見舞金”として数百万で手を打つしかないと、弁護士に言われた。俺は……仕方なく、そうした。

でもな……怒りは……消えなかった。」


その言葉を聞きながら、僕は目を閉じた。

娘の死。病院の隠蔽。形式的な金だけで片付けられた命。

——それが、品川副社長を変えてしまった理由。


黒岩先生は静かに言った。


「……医療ミスは、“あってはならない”ことだ。でも、それが起こってしまった時に、どう向き合うかで医者の価値は決まる。逃げた自馬院長も、息子も、医者失格だよ。」


その通りだと思った。

だが、僕は——同時に理解してしまっていた。

品川が“復讐心”に取り憑かれる理由も、彼が抱えた絶望も。


「……それでも。」

僕は唇を噛んだ。


「それでも、人の命を犠牲にしていい理由にはならない。」


そう、心の中で何度も繰り返した。

品川が歩んだ道は、どこまで行っても“間違い”だったのだから。











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