第13話 副社長の目的

博士は、取り調べの中で静かに核心を語ったらしい。


「あいつ——副社長の品川の目的は……感情をコントロールすることだったよ。」

疲れた声でそう切り出した博士は、ゆっくりと続けた。


「……恐怖心を消して、強い憎悪を抱かせて……つまり、兵士の戦闘力を高めるためのシステムだった。開発したこのマイクロチップを、戦争が起こっている某国に売りつける計画だったんだ。感情を操作された兵士なら、命令に迷わず従う。人間という枷を取り払える、って……あいつは本気でそう考えていた。」


博士はそこで唇を噛みしめたという。


「まあ……その前に僕が捕まってしまったから、その計画は失敗したけどね。」


そして、ぽつりと呟いたそうだ。


「……それでも、僕は止められなかった。研究費が欲しかっただけだったのに……。」


テレビ越しに伝わるその言葉に、僕は全身が冷たくなるのを感じた。

あの小さなマイクロチップが、人間を“兵器”に変えるための道具だったなんて。

しかも、そのために戦争中の国に売るつもりだったなんて——。


「……これが現実だ。」

隣でニュースを見ていた黒岩先生が、低く呟いた。

「夢と金。そこに“命”を忘れた奴が、医療技術を兵器に変える。」


——博士の供述を聞いて、僕は改めて思った。

これはもう、単なるビジネスの話じゃない。

命を“利用する”者たちと、“守ろうとする”者たちの戦いだ。

僕はもう、傍観者じゃいられない。

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