第12話 博士の供述
日本へ送還された一つ星博士は、警察の取り調べでぽつりぽつりと話し始めたらしい。
ニュースで知ったその供述内容に、僕は言葉を失った。
「……副社長にそそのかされただけなんだ。あいつが全部仕組んだ。僕の“弱み”に付け込んで……」
弱々しくそう語る博士は、かつて“天才”と呼ばれた科学者とは思えない姿だったという。
「開発費も研究費も足りなかった……」
博士は呟いたそうだ。
「最初は、会社も国も応援してくれていた。でも、繰り返し頼むうちに、露骨に嫌な顔をされるようになった。もうダメかもしれない……そう思った時だったよ。あいつが言ったんだ。」
——“あなたの研究は素晴らしい。国も会社もあなたの才能を理解していないだけですよ。私が資金提供をしましょう。その代わり、少しだけ協力してもらいますよ。”
「……藁にもすがる思いだったんだ。研究費がなくて、夢を絶たれる科学者を、何人も見てきた。このチャンスを逃したら、僕も同じ末路になると思った。……悪いことだって分かってた。でも、研究のためだって、自分に言い聞かせた。正当化して……」
それが一つ星博士の供述だった。
自分の才能と研究を守るために——博士は副社長・品川の“計画”に加担した。
「……夢は、時に人を狂わせる。」
そう呟いた黒岩先生の言葉が、ずっと耳から離れなかった。
博士は加害者であり、同時に“被害者”だったのかもしれない。
でも、許されることではなかった。僕の脳にチップを埋めたのは、博士自身なのだから。
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