第10話 能年社長
その日の夕方——
僕の病室に、突然、能年社長本人が現れた。
驚く僕に頭を下げると、封筒を差し出してきた。
中身は、レンタル代の返金はもちろん、治療費や慰謝料を含めた賠償金だった。
額面の問題ではなかった。——それでも、誠意は伝わった。
「……本当に申し訳なかった。」
能年社長は深く頭を下げたまま、絞り出すように言った。
「社長なのに、情けない話だよ。副社長の品川に全部を任せていたんだ。——言い訳にすらならないけど。」
その姿は、ニュースで見た“会見での社長”とは違っていた。
肩の力が抜け、迷いを抱えた一人の人間にしか見えなかった。
やがて、能年社長は顔を上げ、真っ直ぐ僕の目を見てこう言った。
「……もしよかったら、僕にも協力させてくれ。品川にも一つ星博士にも、必ず責任を取らせる。奴らを逃げたままで終わらせたくないんだ。」
言葉に力があった。
そして、最後に能年社長は静かに告げた。
「博士は国外に逃亡した。でも——必ず見つけ出す。」
僕は、しばらく能年社長の目を見つめていた。
嘘を言っている目ではなかった。
——だから、信じることにした。
たとえ社長が知らなかったとしても、過去は消えない。
それでも、今この人は“逃げない”と誓っている。
なら、賭けてみよう——そう思った。
「わかりました。……お願いします。僕も協力します。」
その瞬間、小さく、能年社長は息をついた。
ほんの少しだけ——救われたような顔をしていた。
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