第4話 本音を語る

部屋の中は、まるで応接室のようだった。高級そうな革張りのソファーを指さされ、「座りなさい」と促される。

緊張で手のひらに汗がにじんでいるのを感じながら、僕は言われるまま腰を下ろした。


まもなく、黒岩重蔵が現れた。

白衣ではなく、黒のスーツ姿だった。

無駄のない所作で僕の向かいに座ると、まっすぐにこちらを見据える。


「初めまして。黒岩です。副作用の件というと……詳しく聞かせてくれないか?」


低く落ち着いた声だった。僕は、これまでの経緯を必死に説明した。レンタルした知識、頭痛の始まり、ネットで見つけた同じ症状の仲間たち——全てを。


そして最後に、絞り出すようにこう告げた。


「僕が……馬鹿だったんです。黒岩先生の言う通りでした。借り物の知識に意味なんかないって、わかってたのに。自分を信じられなくて、レンタルに頼った。後悔してます。次の試験は、自分の力で受けます。だから……僕を調べてください。何が僕の脳で起きているのか、知りたいんです。僕だけじゃありません。同じ症状の人が、何人もいます。医療関係の知識をレンタルした人だけが……」


一瞬、黒岩の表情が曇った気がした。

そして、短く息をついてから、静かに言った。


「わかっているならいい。……医者っていうのはな、患者の命を預かる仕事だ。中途半端な知識じゃ救えるわけがない。知識も、技術も、覚悟も必要なんだ。本気じゃないとね。」


そう言って、黒岩は少しだけ口元を緩めた。

その表情は——信頼ではなく、覚悟を試す目だった。


「君の後悔に免じて、診てやろう。3日後に来なさい。CTを撮る。」


僕は、はっきりと頷いた。

この3日間が、どんな意味を持つのかは分からない。

だが、黒岩重蔵は確かに“何か”を知っていると、そう確信できた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る