起床

目が覚めたのは午前5時12分。

目覚ましは鳴っていない。

部屋は静かで、まだ外も薄暗い。


天井を見つめる。

どこか、違和感がある。

だが、それが何かははっきりしない。

昨日のことを思い出そうとするが、靄がかかったように曖昧だ。


ふと、左手を見る。

小指の先がかすかに赤い。

擦りむいたような跡。

どこかで引っ掻いたか……?

思い出せない。


洗面台に立ち、鏡を見る。

「おはよう」と口にしてみる。

声は出た。

でも、響かない。

まるで、音が沈むように消えていく。


顔を洗い、歯を磨き、着替えた。

いつもと同じ手順、同じ順番。

スマホを見ると、ロック画面に通知がひとつ。


《メモ帳:編集しました(7月15日 04:57)》


寝ていたはずの時間。

編集した覚えはない。


開いてみると、メモ帳にはひとこと。


《よくねむれた》


それだけ。

書体も、自分のものと違う。

誰かが、勝手に打ったような気がした。


不安を打ち消すように、部屋の窓を開ける。

朝の空気が入ってくる。

だが、その風の中に微かに混じっている――

知らない香水の匂い。


誰かがいた?

誰かが、ここに?


部屋の隅、姿見の前に立ってみる。

ゆっくりと、鏡の前に顔を出す。


“自分”が映っている。

当然だ。

でも、心がぞわぞわする。


「昨日、俺は何をしていた?」


問いかけるように、鏡を見つめる。

“自分”も、じっとこちらを見ている。


そのとき、ポケットの中でスマホが震えた。

通知はなかった。

でも、画面が勝手に開かれる。


音声入力が始まっていた。


《昨日、私は夕方まで部屋にいた。

彼は気づいていなかった。

でも、音で目を覚ました。

だから、そろそろやめるつもりだった。

けど、もう少しだけ。》


言葉が勝手に画面に打ち込まれていく。

操作はしていない。

手はポケットの外。


《だから、“起こして”しまったのかもしれない。》


画面が暗転した。


姿見を見直す。


“自分”は、そこにいなかった。

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