第6話 とっておき

──折り紙。


 それは、正方形の紙を折っていろいろな平面図形や立体図形をつくる、東方の国の遊びだと聞いていた。そう聞き及んでいただけで、実際に目の前で見るのは初めてだった。

 折り紙、という遊びから、一体どうやって答えが導かれるのか。不思議でもあり、楽しみでもあった。少年の言葉と、手元の紙に集中する。

 少年は最初に、正方形の一枚に、その中にぴったり収まる円を書き込んだ。


” へぇ。ずいぶんとキレイな円を、ぴったりと描いたな ”


 それ自体に意味はない。でも、キレイな図は見ていて気持ちが良い。


「これが大きい正方形です! そして、その正方形の中に入る円です!」


 それからもう一枚の方を見せて。


「次に、もう一枚の折り紙で、小さい正方形を作ります」


 そういうと、正方形に縦横の十字に折り目を入れて、その中心に正方形の4つの角を集めた。元の正方形よりも、ひと回り小さい正方形ができる。


「これが小さい正方形です! その証拠に、円の中にちょうどぴったり入ります!」


 そう言って、大きい正方形にひと回り小さい正方形を重ねて見せた。小さい正方形は、寸分たがわず円の中に納まった。

 そこには間違いなく、大きい正方形と、その中の円にぴったり収まる小さい正方形ができていた。


「もとは同じ大きさの正方形でした。小さい方の正方形は、折ったことで全体が二枚重ねになっているので、面積は元の正方形の半分です。だから大きい正方形は小さい正方形の2倍です!」


 それを聞いた私は。

 思わず、笑顔になってしまった。


「これは、全部キミが考えたのかい?」

「はいっ!」

「すごいな。初めて聞いた解法だ! 私は、この答えがとても好きだよ」


 そういうと、少年は花が咲いたように笑った。

 その笑顔に昔の自分が重なって、なんだか安心するのと同時に、嬉しかった。


「内容は分かったよ。私が代筆しても構わないかな?」


 少年は「はいっ!」と答えた後に「ありがとうございます」といって、丁寧にお辞儀をした。かわいい。

 私は受付の人からも許可を貰い、少年の解法を、図と言葉で説明した。少年に見せて、大丈夫であることを確認してから提出した。

 提出が済むと、受付の人から小さな長方形の札が配られた。3桁の番号が振られている。


「今後もいくつか問題が出ます。その際には名前代わりにこちらの番号を記入してください」


 なるほど。この番号で成績を管理していくようだ。気になる点がないこともないが、優秀な人材を発掘するために、かなり前向きなのが分かった。

 受付の説明も終わり、私たちは少年と一緒に設問所を出た。


 さてさて。

 では、本題に入ろう。


 『折り紙』だ。


 私の記憶では、折り紙は紙を使ったのはずだ。

 でも、目の前の少年は、折り紙を幾何学の証明に使った。折り紙が幾何学的な証明に使えるなんて、そんな話は聞いたことはない。

 この証明は、折り紙がなせる業か。

 それともこの少年が独自に編み出したものなのか。

 それを確かめる必要がある。

 私は、少年の前で膝を折った。


「キミのその折り紙、どこかで習ったのかな?」

「はい。本を読んで覚えました」

「その本にはどんなことが書いてあった?」

「いろいろな折り方です!」


 そういうと少年は懐から紙を取り出して折り始めた。

 少年が紙を折ってできたそれは、鳥のような立体図形だった。

 胴体のようなものに、大きな翼が2枚1対はえている。尾と首がやたらに長く、首の先の頭は小さい。

 首の長い鳥。そんな言い方をするととても奇妙に聞こえるが、翼を広げた様子は不思議と美しくまとまっている。

 紙であるにも関わらず、それは細工物としても美しかった。


「これは、なんだ?」

「ツルです! 本には鳥の仲間って書いてありました。ボクが好きな折り紙です」

「なるほど。こいつはすごいな」


 このツルの美しさに感心しつつ、頭の片隅で情報を整理していた。


" 折り紙、といってコレが出てきたってことは、やっぱり、本来は証明のためのものではなんだろうな。折り紙を証明に使ったのは少年の感性か "


「なぁ、他にはどんなものがつくれるんだ?」


 その言葉に、少年は自信たっぷりの笑顔を作った。


「では、とっておきを作ります!」


 そういってまた、紙を折り始めた。正方形の紙を半分に折って折り目をつける。その折り目を目安にして、正方形を五角形に。そこからさらに折って、だんだん三角形に近くなっていった。

 そうしてできたのが、取っ手のついた三角形だった。

 少年は、その三角形を私に渡した。


「これは?」

「すごいヤツです! ココの取っ手の部分をもって、前に出しながら放してあげてください」


 少年は身振り手振りを使って、教えてくれた。

 その様子を真似して、その三角形を振りながら、優しく手を離した。


 ───▷ 

 その三角形は

     ───▷

       空を飛んだ

          ───▷ 


 声にならない声が、口から洩れた。

 目の前で、紙が、空を、飛んだ。

 キセの嬉しそうな声が、耳に入った。


「飛行紙です!」

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