第5話 折り紙

 円積問題。

 それは有史以来、未だに解かれたことのない三大問題のひとつ。


 任意の角の、三等分線の作図。

 体積が2である立方体の作図。通称「倍積問題」。

 そして。

 半径1の円と等しい面積を持つ正方形の作図。通称「円積問題」


 有史以来、未だに解かれたことのない3つの問題。

 それが三大問題だ。


" まさか国が、円積問題の解決に乗り出すのか。円積問題が解けたら、数術の歴史に刻まれる大事件だ。数術だけの話じゃない、時代が300年は先に進む。もし仮に解決出来たら。みんなが石の武器や道具を使っている中で、一人だけ近代の武器や道具を持っているのと同じようなものだぞ "


 大変なことが始まろうとしている。

 思わず、のどが鳴ってしまう。

 震えを隠すために、こぶしを握り、口につけた。

 横にいるアルを見る。

 アルは口を真横に結び、何かを考えるように遠くを見ていた。それから、思い出したようにこちらを見た。


「それじゃあ、解答しに行こう」


 そう言って、小屋の方に進んでいく。

 私も、そのあとに続いた。

 手続きをして、受付の人から解答用紙をもらう。

 そこに、解答を書き込んでいく。

 大きい方は正方形の面積の公式『一辺×一辺』で求められる。

 重要なのは小さい方の面積の求め方だ。

 小さいほうの正方形は一辺の長さが分からない。だから『一辺×一辺』では面積は出せない。

 普通の人なら、ここでお手上げだ。

 でも、数術師は違う。

 数術らしい技巧を使う。

 小さい正方形の見方を変える。

 つまり。

 

 小さい方の正方形の一辺は分からない。

 でも、対角線が大きい正方形の一辺と等しいことは分かっている。

 そこで、ひし形の公式『対角線×対角線÷2』を使って、面積を求めることができる。

 大きい正方形の一辺の長さは分かっていないので、とりあえず□とする。

 そうすると、大きい方の正方形の面積は『□×□』

 小さい方の正方形の面積は『□×□÷2』

 したがって、大きい方の面積は小さい方の面積の2倍だ。


「──これでよし」


 説明を書いて、受付に提出した。

 受付の人は、解答用紙を受け取ると、すっと横を見た。その視線を追う。どうやら隣の受付で、少年と受付の人が話をしている。どうやら、お互い困っているようだった。


「どうしたんだ?」


 声をかけると、受付の人は助けを求めるように言ってきた。


「この子が、問題の解法を紙を使って説明してくれてるんだけど。私は数術がさっぱりで。申し訳ないのですが、ちょっと聞いてもらってもいいですか?」

 

 受付の人に促され、少年を見た。

 十二、三歳くらいだろうか。

 そんな子供が、大人でも悩むような数術の問題に挑戦しているのが、なんだか微笑ましい。でもその少年は、うまく伝わらないことが悔しいのか、不安げな表情で目に涙をためているように見えた。

 その様子が。

 なんだか昔の自分を見ているようで、放ってはおけなかった。

 私は膝を折って、少年と目線を合わせた。


「キミの答えに興味があるんだ。どうやって答えを出したのか、教えてもらえるかな?」


 少年は少し緊張した様子を見せながらも、コクンと頷いた。

 それから、正方形の紙を2枚取り出した。


「ん? その紙は、なんだ?」

「はいっ! 折り紙です!」

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