第10話
「ご確認ください」
コルテンは、年老いた冒険者にそう促す。
年老いた冒険者は、その短剣の柄を右手で握り、左手で鞘から引き抜くと刃の状態を確認する。
刀身には赤黒い線が血管のように走り、時折脈を打つように明滅を繰り返している
それは見る者に禍々しい印象を与えるだろう
「注文した特殊効果は?」
短剣を鞘に収めた年老いた冒険者がそう尋ねる。
眼光は鋭く、まるでコルテンの精神状態を探ろうとしているようだ
それは年老いた冒険者が歴戦の勇士である事を示している。
“死”と隣り合わせの環境に身を置いている冒険者ならば、自然と
身につくものだ
コルテンはその視線をものともせずに営業スマイルを
浮かべたままだ
「ご注文を頂いた負傷状態の敵に対するダメージを低確率で倍に
高める効果を付与させていただきました
ご要望の古代魔術『メッサーシュミット神世七代法儀式型』の
複合属性を 使った“魔法効果”です」
コルテンは、その眼を細目ながらそう答えた。
“メッサーシュミット神世七代法儀式型”とは古代語魔術の一つである
その古代語魔術を生み出したのが、『羅刹鬼』の異名を轟かせた
魔術師メッサーシュミットだ
数百年にも亘り伝えられてきた 今では“失われた魔法”や“秘術”と
呼ばれる類の代物でもある
「呪い状態異常付与と魔力消費量軽減付与は?」
年老いた冒険者はそう呟くように口を開く
「呪い状態異常の種類は、ご要望の南大陸で発生した
『七聖経の聖杯戦争』で使用されたと言われる神聖魔術の1つ
『ヴォルケンクラッツァー魔術学『アスタロト』系ムスペルヘイム
『活動』位階の“呪い”を付与いたしました
魔力消費量軽減付与も、ご要望の東大陸の『コンデリア王立魔術学院』で
使用されていた古代魔術ドレッドノート『流出』位階です」
コルテンは営業スマイルを崩さずにそう答えた。
「魔法攻撃の受けるダメージはどれほど軽減できる?」
年老いた冒険者は、間髪入れずにそう尋ねる。
「製作材料で『神人石』を使用しており、主に炎、冷気、石化を90%軽減可能です」
コルテンはそう答えた。
“七聖経の聖杯戦争”は、南大陸で数百年前に15カ国の国家が
“神人石”と呼ばれる鉱物を媒体に生み出された“聖遺物”を手に入れる為に
相争った“聖杯戦争”だ
“聖杯戦争”に参戦した『ヴォルケンクラッツァー魔術学院』は、
所属国家内から選りすぐりの魔術師達を召集して
“神人石”を奪取するため古代魔術『アスタロト』系魔術学
ムスペルヘイム『活動』位階』』の魔法技術を習得した魔術師達を
惜しみなく投入した
しかし“神人石”を奪取する為に行われたその戦いに、勝者は1人も出なかった
15カ国の中で7か国には、それぞれ“七大天使”の加護を受けた7人の
魔術師の存在があった
その闘いは熾烈を極めた
明白な勝者がいないのは、参加者全員が悉く相打ちのような形で
命を落としたから でもあるが、それ以前に“七大天使”の加護を受けた
7人の魔術師達の実力は規格外だった
もっとも数百年前の出来事でもあり、文献でもほとんど語られていないが、
“七聖経の聖杯戦争”の一つ一つの闘いは“魔法”史上に残るほどの
壮絶なものだった事だけは間違いない事実だ
この大陸の酒場で吟遊詩人が語る歌の中に数多く登場しているのは、
風を司る“嵐竜”の加護を得た魔術師と『ヴォルケンクラッツァー魔術学院』所属の
魔術師による“風と炎の闘い”だ
古代魔術ドレッドノート『流出』位階は、主に東大陸の
古代語魔術の1つで“闇“属性と“炎”属性を融合させた複合属性の魔術だ
数少ない“魔力消費量軽減”の付与効果を持つ“魔法”で、『コンデリア王立魔術学院』出身の古代魔術師ドレッドノートが編み出したと言われている
ドレッドノートはその“闇”属性の魔術で、当時東大陸で勃発していた
“失地戦争”を 率いた張本人の一人とされている。
その争いは、東大陸の1つの大国がドレッドノートが齎した闇属性の
魔術を真似て作った “闇”属性の“魔法”を大陸中に広める事により
勃発したと言われている。
ドレッドノートが編出した闇属性の魔術は“魔法”と認識されていなかった為だ。
しかし、この“魔法”は東大陸の1つの大国が編み出してしまった為に、瞬く間に
世界中に広まってしまった
その事により、ドレッドノートは怒り狂いその大国を滅ぼそうと
試みたのだが、その怒りに同調する者は少なく
逆に返り討ちにあい命を落としたという。
その戦争の最中、ドレッドノートが編み出したと言われているのが
“闇“属性と“炎”属性の複合属性の魔術だ
ドレッドノートが創り出した数多くの魔法の中でも、比較的最近
発見された古代魔術だ
が、習得するのに困難な古代語魔術を身に付けなくてはならないため
習得している者は そう多くはいない。
“神人石”という鉱物は、“アダマンタイト” “オリハルコン”
“ミスリル”と並ぶ世界三大希少鉱物の1つだ
“神人石”を材料として生み出される“聖遺物”は 他の希少鉱物とは、
比肩し得ないほどの強力な力を秘めており、ある文献では
その所有者を“王”と称した事もあるほどだ
“聖遺物”が作成される過程は、その所有者が“王”として 認められるか
どうかの試練とも言われている。
この聖遺物を巡り争い合う者達は文献にだけに残っているだけでも
後が絶たず、中には比較にならないほど劣化した“神人石”を
聖遺物として後世に残す者までいた
“聖遺物”を生み出す事が可能な“神人石”は、現在も尚この広大な世界の
何処かで眠っていると言われている
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