第8話

『迷宮商人』コルテンは、リュックサックから綺麗に梱包された

 槍、大剣、小剣 を取り出して、リーダーらしき男の前に並べ始める

「まさかこんなに早く届けてくれるとは思ってなかったぜ」

 次々に並べられていく商品へ、男は視線を向けながらそう話す。

「万全の状態で挑んで頂きたいですから」

 コルテンはそう答え、商品を並べる手を止める。

 それらの商品は、素人が見てもどれも一級品の逸品ばかりで、

 そこらで売っている 粗悪品とは比べ物にならない

 リーダーらしき男は、まず小剣を手に取ってじっくりと観察をする。

「そちらの小剣は『黒円卓女王アナサジの刃』と呼ばれる逸品です。

 現存する魔導鬼層を全て組み込んだ魔導武器。

 ご注文頂いた通り“剣”形態と “盾”形態に切り替えることが可能となります」

 コルテンは小剣の付属品である漆黒の鞘を取り出すと、それをリーダーらしき

 男に手渡す


「注文した通り“敵の移動速度”を低下する能力を付与してくれたか?」

 男は興味深そうに、鞘に納まった小剣を、軽く振って感触を確かめると

 そう尋ねる

“敵の移動速度を低下させる”とはつまりは、相手の動きを阻害する

 能力である それは戦闘において非常に重要な要素で特に魔法職や

 魔術師にとっては その効果のほどは大きい

「ご注文通りに。

 ですが、“時間制限”が設定されており、一定時間が経過すると その

 効果が解除されてしまうのでご注意ください」

 コルテンは、そう説明する

「それもまた一興だ――。次はこれだ」

 リーダーらしき男が次に視線を向けたのは、大剣だ


 それは他の武器と比べて、まるで岩からそのまま削り出したような

 無骨なデザインだ。

“剣”形態は刃の部分が幅広くなっており、両刃で鍔が付いており 柄は

 両手で握れるようになっている。

 何より特徴的なのは、刀身と柄の間に“石突”と呼ばれる部位がある事だ

 この石突とは本来槍や薙刀などの長柄武器に付けられている物で、それを

 大剣である この大剣に“剣形態”と“盾形態”の時に、その先端部に

 付け加えるように追加している

 そんな大剣は――身の丈に迫ろうかという程の大振りで

 およそ平均的な体格である人間種の男性が振るには手に余る

 重量も然る事ながら、取り回しやすさが劣っている事に違いないだろう

“大剣”形態と“盾形態”を切り換える事が可能なのは幸いだ

 しかし……

 やはり 重量があり過ぎる為か、この階層より下になると魔物から受ける

 攻撃は一撃必殺となり得る。


「――『ファルミネイター家の獅子心剣』と呼ばれる逸品です。

 処刑人一族たるファルミネイター家の初代当主が使用していた『宝剣』を

 子孫である『死森の来訪者』と恐れられたゼルファス・ファルミネイトが

 その“力”と、そして彼の持つ“剣技”を存分に振るうために改良に改良を

 重ね 完成した一品になります。

“宝剣”の刀身は、通常の金属よりも強度が高く魔力伝達率の高い

 魔法金属で作られており、その刃はあらゆる物を斬り裂きます」

 コルテンがそう説明した

「こっちも注文した通り“稲妻系”能力を付与したんだろう?」

 リーダーらしき男は手に取った大剣を肩に乗せて、そう尋ねる。

“稲妻系”とは“雷属性”の事だ


 この大陸では“魔法”は大きく分けて3つに分類されて、地水火風の

 基本四属性の魔法、光と闇の上位二属性である聖魔属性の魔法

 そして聖職者が扱う神聖魔法だ

 通常 これらの魔法は、それぞれ反発し合う性質を持っており攻撃系統に

 使用されている物なら属性耐性による抵抗力を受ける事になるが、

“雷系”の魔法のそれは他の二属性とは性質が異なる。

 この“雷系”魔法は、その特性として “聖魔属性の魔法や神聖魔法に強く

 反発する”という特徴を持っている


「ご要望通りに付与させていただいたのは、『妖魔13聖槍奇士団覇道儀式『黒雷』と言う名で知られる上級魔法を付与させていただきました」

 コルテンがそう説明をする

「魔法方程式は『ライカンダー古代魔法議定書』って所か……。

 攻撃範囲は?」

“ライカンダー”とは“北大陸”で暮らす亜人種の一族だ

 かなり長寿な上、身体能力が極めて高いことで知られている

 彼らは自身の持つ“血”に宿る様々な力を自在に操り戦闘に用いる術を

 持っておりその伝承や古代書などを編纂した書物を幾つも残している

 これら魔術書の多くは魔導師の見習い達にとって必読書で、 それらを全て

 記憶しているのは魔法を極めた熟練の魔導師でも至難の業だ


『妖魔13聖槍奇士団覇道儀式』とは、西大陸アウタウンに遥か昔に、南方地域

 一帯に覇を唱えていた、13人の魔導師が編み出したとされる魔法だ。

 絶大な能力を駆使し無尽蔵の魔法知識を保有していると言われるが、魔法を

 極め過ぎた余りに社会から排斥され失意の末に各地を彷徨い歩き 人里離れた

 土地で隠居生活を送っていた。

 それが魔導師一族“13聖槍奇士団”の一員であった、魔術師が記した魔法書に

 記載されていた事で、世に広く知れるようになった。

 だが、威力は絶大であるこの特異な魔法には大きな欠点があった

 それは“術者への反動”だ

“妖魔13聖槍奇士団覇道儀式”を発動すれば、使用者は確実に息絶えてしまう

 まるで、最期の瞬間に自身の限界を超越しているかのような そんな破格で

 強力無比な魔法でもある。



「攻撃範囲も指定された通りに“調整”してあります」

 コルテンは、リーダーらしき男の質問にそう答えた

「最後に――槍は?」

 リーダーらしき男が、最後に向けたのは一本の槍だった

 それは穂先から石突まで全て漆黒に染め上げられていて、禍々しい

 外観をしていた

 黒檀のような滑らかな木製の柄には黒色に染色された鹿革を巻きつけており、

 その石突のすぐ傍に、まるで血のように赤い宝石が嵌められている

「――『燻る災禍の聖槍』という、古代王朝アーケインが滅亡する

 以前より伝わる 魔導工学の粋を結集し創りあげた至高の逸品です」

 コルテンは、その槍の柄を手に取ってそう説明する

「俺が今まで見てきた中でも最高級のものだ

 こっちにも注文した通り、物理・炎の複合属性、そして出血の

 付帯効果を付与した のか?」

 リーダーらしき男がそう尋ねつつ、槍の石突に嵌められている

 赤い宝石を指差す

 宝石は“魔石”と呼ばれるもので魔力が籠められており、その魔力を

 解放すれば 様々な魔法が発動する


「ご要望通りに付与させていただいたのは『ニーヒル王・極北強化魔術『活動』

 位階』の“魔法効果”です」

“ニーヒル王”とは、北大陸の北端にある小都市国家を一代で築き上げた

 人間種族の王だ

 その功績から 彼の名を取って“北王”とも呼ばれている

 しかし、彼はその強大な権力と武力を背景に周辺の国々へ

 戦争を仕掛けた事で、多くの国々から敵視される事になった


 そんな北王の野望は陸全土を手中に治める事だったが、北王の野望を

 阻止するべく立ち上がった4人の冒険者達によって

 北王は討ち取られる事になる

 それらの事は酒場などで吟遊詩人が歌にして、北王を討った冒険者達の

 事績は広く知れ渡っている

『ニーヒル王・極北強化魔術『活動』位階』は、北王が若い頃に愛用していたと

 伝えられている古代“マジックアイテム”だ

 それは北王の破滅とともに行方が分からなくなっているのだが・・・・。

「法儀式は?」

 リーダーらしき男がさらに尋ねる

「 『神武』アルウスの改良型『煌めき』。

 魔力は落ちてますが、火力と耐久力が格段に上がっています」

 コルテンがそう説明をする

『神武』アルウスとは南大陸に存在したザガローナ王国が、最強と謳う

 魔導師の将軍が“超古代文明”の魔術書を使って編み出したとされる

 超自然の力の事だ

 その力は たった1人で数千の軍勢とも渡り合えると謳われるほどだった

 南大陸で絶大な力を誇った ザガローナ王国を滅亡へと追いやった7人の魔神王と、

 その配下の魔物達から国を守るべく編み出したとされる魔導書 “法儀巻物”

 しかし、現在は“法儀巻物”そのものが行方を知られていない



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