第7話
「はい。確認しました」
『迷宮商人』コルテンは、画に描いたような営業スマイルを浮かべながら
背負っているリュックサックを地面に下ろすと、その口を開いて
中から“商品リスト”を取り出す。
中からは厳重に梱包された木箱が姿を覗かせており、それを
一つ一つ地面に 並べていく。
木箱に入った“商品リスト”は、 “回復系“ポーションの他に、毒麻痺解除などの
基本的な“解除薬”を始め、解除や呪いを解くための“解呪薬”
一定時間能力を強化・向上させる“強化薬”、一時的に身体能力を向上させる
“増強剤”など多岐に渡る商品が類が入っていた
それらはこれから地下7階階層より下へ挑むには、準備しておきべき
必須のアイテムだった。
熟練冒険者パーティーが迷宮探索に準備すべき必需品は、無数に
存在するが特に必要な物は複数ある
その一つが“回復系”ポーションだ。
戦闘をこなす冒険者達にとってもっとも重要な回復薬であり、物資で
ある事には間違いない。
少しでも多くの体力と魔力を回復する事は死活問題だからだ。
次に“解呪薬”が必要になることがある。主に呪いや状態異常を
受けた時だが、その解呪が出来ないと呪いは解除できないし、毒に
侵された場合も、解毒薬がなければ そのまま死んでしまう。
また“強化薬”も重要だ。
特に魔力や体力を消耗して戦う魔術師にとっては 生命線ともいえる。
“増強剤”は一時的に身体能力を向上させて、戦闘を有利に運ぶための物で
これの消費によって戦況は大きく変わる事になるだろう
魔法職のメンバーが死んだとしても迷宮探索できるように、油を込めた
ランタンも必要だ
「これらがお客様がご所望されていた商品になります。
ご確認ください」
コルテンが、 “商品リスト”をリュックサックから取り出すと、それを
冒険者パーティーに手渡す
その“商品リスト”を受け取ったのは筋肉質な男だ
他の二人も ただ静かに頷くだけで、特に何か言う様子もなく
そのリストに眼を通していく
「この階層より下からは、状態異常を与えてくるような厄介な
魔物が生息するエリアだ
これだけ揃えてないと、オチオチ潜ってもいられねぇ」
筋肉質な男はリストに目を通し終えると、不敵な笑みを浮かべながら
代金の入った皮袋をコルテンに手渡す。
その代金を受け取ったコルテンは、軽く一礼をする
「罠も危険ですので、お気をつけ下さい」
コルテンがそう忠告すると、筋肉質な男は商品を仲間に手渡して
背中の鞘から大剣を抜く
そしてそれを肩に担ぐと仲間を引き連れ立ち去っていった
それから間を置かず、別の冒険者パーティーがコルテンの
元へと近づいてきた
彼らは冒険者というよりも、傭兵のような出で立ちの屈強な男達だ
大陸規模の戦乱が勃発しておらず、“闇の時代”到来から傭兵が
冒険者稼業へ鞍替えする例は数え切れない程あった
質実剛健な者から悪辣非道な者まで多種多様で占められている、数多の
大型傭兵団が誕生し、その勢力は拡大の一途を辿り続けている
しかし、傭兵団に属する者達は皆一様にして、 “金”で動く。
“闇の時代”が到来する前となんら変わらない。
だがそれは、傭兵達にとっては好都合な事でもある。
彼らにとって必要なのは、 “報酬”だ
そして武力である なによりも重要なのは“金”であり、
それを得るためならば手段を選ばず、時には非道な行為にも手を染める
大型傭兵団が誕生する事もあれば、逆に傭兵団そのものが
廃絶する事もある
冒険者稼業へ鞍替えする者は、廃絶して流浪する者達が大半だ
傭兵のような出で立ちの屈強な男達の先頭にいるリーダーらしき男は、
フード付きのマントを羽織っておりその素顔を隠している
男の不気味な雰囲気は迷宮内部に溶け込み、普通の人間となんら
見分けがつかない
明らかに異質だ
背後の左右に控える二人の男達は、身長180センチ程の男達で
ガッシリとした体軀をしている両腕が太い
服装は軽装ではあるが、胸部と背中は革製らしい鎧を着用しており
腰には剣を帯びている
一見すると “盗賊団”にしか見えない風貌だが、『迷宮』に流れてくる
無法者集団の大半はヴィンダムの地下5階層より下に存在している
『闇租界』へ流れている
彼らのような存在は、ヴィンダムの『迷宮』だけではなく各所の
迷宮内を跋扈している事が冒険者にとって問題となっている
殆どは人気のない街道沿いや宿場町の裏通りなどで、旅人や行商人を相手に
恐喝や強盗を働くような 小悪党の類だが、中には冒険者と
一戦交える様な者もいる
「オーダーメイドの武器を注文したんだが?」
フード付きのマントを羽織っている、リーダーらしき男が
コルテンへそう話かけ、手に持っていた羊紙をコルテンへ手渡す
それを受け取ったコルテンは、軽く一礼をすると差し出された羊紙を
紙面に眼を通していく
そこに書かれているのは “オーダーメイドの武器”を注文した男の
名前など刻まれた個人情報だった。
『迷宮商人』コルテンは、それらの情報を確認すると再び
画に描いたような営業スマイルを浮かべる
その営業スマイルに、背後の左右に控える二人の男達は思わず貌を
引き攣らせるがすぐに表情を戻した
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