第6話
西大陸アウタウンには中級冒険者以上が活動拠点としている
迷宮都市なるものが3つある
第一都市“栄光の都”アヴァロニア
第二都市“古代の都”ヴィンダム
第三都市“魔法都市”ランザッド
どこの都市も街壁で囲まれた城塞都市で、冒険者を相手に商売をしようとする
抜け目のない商人達も集まってくるため、常に活気があり商売も盛ん だ
この物語は、第二都市“古代の都”ヴィンダムの財貨と魔物が満ち溢れ
何処まで階層深く続いているのか知れぬ『迷宮』内部の、広大な
地下空間を主な舞台で活動している『迷宮商人』コルテンの物語である
古代の都”ヴィンダム『迷宮』地下7階の安全地帯に、リュックサックを背負った
『迷宮商人』コルテンがゆっくりと踏み入れてた
コルテンの側には用心棒1人が控えている
身に纏っているのは、東方島国『大和国』では珍しくはない袴で、
黒系の高級感があるものだ
腰に 帯刀している武器は、東方島国『大和国』で主流となっている刀だ
その双眸は冷たく鋭い輝きを放っており、それがただの人間ではない事を
証明している
足元は東方島国発祥の足袋を着用しており、袴の裾から見える足袋は
年季を感じさせるくすんだ色合いをしていた
が、旅塵の汚れや垢などが見当たらない
自然体とした立ち居振る舞いに隙はなく、一挙手一投足を
観察されているような錯覚を 覚える
その姿を見ればすぐに“剣聖”と呼ばれる『上人』である者だとわかるだろう
安全地帯には複数の熟練冒険者パーティーが思い思いに 装備の確認や
道具の整理、休息をとったりと過ごしている。
各地にある『迷宮』内部では共通している事が、魔物を寄せ
付けない少なからずな『安全地帯』と呼ばれる空間がある
その場所に立てばたとえ凶悪な魔物に襲撃されて、『安全地帯』へ
逃げ込む事で難を逃れられることで命を落とすリスクを回避できる
とはいえ絶対ではないし、魔物は四方八方にいるためいつまでも
『安全地帯』に 居られるわけではない。
『安全地帯』は、迷宮内部を探索する冒険者にとって命綱であると
同時に魔物が いつ襲ってくるかという危険も孕んでいる
『迷宮』は広大であり最下層は何処まで続いているのかは、誰も知らない
分かっている事は、各地の『迷宮』内部には地上に生息している
動物、魔物、植物などの生物とは全く異なる人外生物が
棲み付いている点だ
何故、魔物や人外生物が棲息しているのかは諸説あるが
本当の事は判明していないが、そこからは珍しい鉱物、魔法道具などが
手に入る事があり、冒険者や商人に とっては貴重な資源にもなれば、
一攫千金を狙える場所になる。
「『迷宮商人』です。
ご利用されるお客様は、おられますか?」
コルテンは、安全地帯内で各々に休息を取っている冒険者パーティーに
対してそう声を掛ける口調にはなんの感情も感じさせない
表情も同様だった
そんな声に反応して振り向いたのは、3人組のパーティーだ
身の丈以上の長さを持つ槍を構えている筋肉質な男が代表格らしく
他の二人と貌を見合わせると、すぐにコルテンへ向き直り近付いてくる
「配達を頼んだんだが」
筋肉質な男がぶっきらぼうな調子で言いながら、懐から
羊紙を1枚取り 出しコルテンへ差し出す
その羊紙は、古代の都”ヴィンダムの『冒険者ギルド』が
発行しているものだ
コルテンはそれを受け取ると、内容を確認する
内容は、依頼品の受け取り場所や日時が記載されており、コルテンは
文面を眼追いつつ軽く頷く
その視線に込められた感情は読み取れない
ただジッと相手を見ているだけにも見えるが、どこか値踏みしているような
印象も受ける
そんな視線を受けても男は気にする様子もなく、逆にコルテンを
睨み返すように鋭い視線を送ってくる
羊紙に記載されていたのは、眼の前の冒険者パーティーが求める
商品一覧と数量、 引き渡し希望日時と場所の確認である
この近年は、迷宮探索の進歩により生産技術も発展し、新製品も
数多く 発売されており、それが商人達の利益を押し上げている。
また探索を行う冒険者は、より多くの装備を携行することも
珍しくなくなっている。
大量の食糧や飲料水、個人用武器とパーティー用武器、
医薬品、防寒具、テントなどの必需品等々・・
様々な物資を運搬する商人達にとっても、その利益は計り知れない
個人の携行重量は平均25キロから30キロ
それが迷宮内の『安全地帯』に到達するまで延々と続くのだ
そしてその運搬は命がけである
『迷宮』に潜り、探索するという事はすなわち死の危険と
隣り合わせである事は言うまでもないが、その運搬作業は
更に危険度が増す。
『迷宮』に潜って探索する冒険者パーティーは、迷宮に出現する
魔物から効率よく戦闘する事や逃走する事も考慮して
パーティーの編成や装備を入念に整える。
また戦闘における役割分担も重要な要素だ。
その他に休暇・帰還できるルートの選定も、生死を分かつ
大事な判断材料になる。
大掛かりな探索の場合は、複数のパーティーで行動する事も
多くなるが それだけに道具や装備の準備は
万全でなければならない。
そしてその準備はお互い監視しあい、手の内を全て知っていれば
心強い味方にもなる反面干渉が過ぎれば足枷にもなってしまう。
迷宮内では何が起こるかわからないので常に気を
緩めるわけにはいかないのだ。
しかし、迷宮探索において最も危険度が高いのは『迷宮』内の
“魔物”以外にも“罠”がある
危険な“罠”の類は無数に存在している
上層階層ならば、命を落とす様な大怪我を負ったり、最悪死亡する事は
少ないが それでも罠にかかってしまったら、それは“死”を意味する
迷宮探索は命懸けの行為だ。
巧妙に仕掛けられてる“落とし穴”には、罠にかかった者を殺すべく
穴底に木の枝や竹などの尖った部分を上にして備え付られている
また、他の階に強制的に落とされる“テレポートポイント”
“回転する床“、“暗闇地域”など危険な罠が無数にある
古代の都”ヴィンダム『迷宮』内には無いが、他所の『迷宮』内には
階層そのものが“魔術無効エリア”が存在したり、“毒ガスエリア”が
存在している場合もある。
『迷宮』探索を行う者の多くは冒険者であり、日々の生活の
糧を得るために仕事としている
故に自然と武装も充実していく事になるわけだが、その一環として
装備点検のための資金調達は重要な問題になる。
そんな冒険者達にとって一番に利用されるのが、 “迷宮商人”である
“迷宮商人”は、冒険者の必要とする物資を、迷宮内で調達して
冒険者へ販売する事業としている
“迷宮”は古代から存在する地下空間で、その規模や構造が
解明されているのは ほんの一部分に過ぎない。
『迷宮商人』コルテンは、主にヴィンダム『迷宮』の地下5階階層で
店舗を構えて営業をしている
品質の良い武器防具類の他に、主に地下10階よりさらに
最深部階層からでしか入手できない素材類なども販売している
また、冒険者の必需品である“回復薬”も取り扱っているが、その価格は
他の店よりも割高に設定されている
主な仕入れ先が最深部階層からであり、そこに棲み付く魔物達の他に
『魔石子』の原材料でもある、何かとちょっかいを仕掛けてくる
“闇租界”連中だからだ
それらの素材を冒険者パーティーだけに限らず、古代の都”ヴィンダムの
大手商店や上層階層の“迷宮商人”へ小売りに出せば
それだけでも十分な稼ぎを得ることが出来るだろう。
しかし、それだけでは到底生計は成り立たない。
『迷宮商人』コルテンの店では鍛冶工房の設備も整っており、
武器、防具の修理、改造なども受けている
各所の『迷宮』上層階層には、少ならからず“迷宮商人”が居るが
殆どはただの盗賊紛いの悪徳商人だ
古代の都”ヴィンダム『迷宮』に限っては、『迷宮商人』コルテンの
扱う商品は、地上の商店や上層階層の“迷宮商人”が販売している値段より
かなり割高ではあるが商品の質が群を抜いている
だが、地下7階まで潜れる熟練冒険者パーティーならば決して
払えない金額だ
熟練冒険者パーティーの大半は上層階層の“迷宮商人”から買うよりも、
商品の質が群を抜 いているが、値段も群を抜いているコルテンから
仕入れるようになっている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます