第三章 残響の焔
かすかに響く声があった。
誰もいないはずの世界で、
確かに誰かが歌っていた。
「……そこ、動くな」
低く鋭い声が、闇に響いた。
ミオは反射的に立ち止まる。視線の先、瓦礫の陰から男が現れた。
「ミオ……生きてたのか」
「ユウ……!」
ミオは思わず声を上げた。
数日前、彼と別れて以来だった。
「まさか、また会えるとはな。無事だったか?」
「うん。なんとか逃げた。でも……逃げてる途中で、気づいたら歌ってた」
「歌を?」
ユウの表情が一瞬で険しくなる。
「誰かに聞かれてないだろうな?」
「わからない。……でも、その歌がずっと頭の中で響いてて……」
ミオは言い淀んだ。
あの旋律と詞は、まるで誰かが彼女の中に残したメッセージのようだった。
「……ついてこい。お前に会わせたい奴がいる」
古びた地下施設の一角、小さな部屋。
そこにいたのは、静かにノートをめくる少年だった。
「ナユ。こいつが……例の歌を口ずさんだ子だ」
少年は顔を上げると、少し驚いたように目を見開いた。
「……君が?」
「えっと……私は、その……」
「焦らなくていいよ。何か思い出せた?」
ミオは首を振る。
「でも……夢の中で、誰かが言ってたの。
“この声が、まだ生きてる”って」
ナユは、そっと手帳を開いた。
「このフレーズ……君、覚えてる?」
> 瓦礫の街 ひび割れた空
誰もが夢を忘れたまま
ひとりきり 燃える目をして
あの日の約束 拳に握る
ミオは息を呑む。
「それ……知ってる。口ずさんでた、あの時……」
「やっぱり。君の声に反応した。
“Burn in the Silence”は、Cが最も恐れる歌なんだ。
世界が沈黙する直前、最後に残った“反逆の詩(うた)”」
ユウが口を開く。
「ミオ、お前の声には、その歌が残ってる。
それが本当なら、Cの心臓部に響く鍵になるかもしれない」
「でも……私、全部は思い出せない。
断片しか……」
ナユは小さく笑った。
「断片でもいい。声が続く限り、誰かに届く。
その火は、誰にも消せないんだ」
ミオは目を閉じ、そっとつぶやいた。
> 私は 私を裏切らない……
その瞬間、胸の奥に小さな熱が灯った。
それは、確かにかつて“自分がいた”という証だった。
世界が沈黙を強いても、
声が、歌が、生き残っている限り
私は、前に進める。
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