第四章 沈黙を裂く光


> ――沈黙は、声を殺すためにある。

けれど声は、必ずどこかに届く。





---


「ミオ、本当に来る気か?」


隠れ家の出口で、ユウが問いかける。

ミオは迷いなくうなずいた。


「私の声が鍵になるなら……放っておけない」


「危険だぞ。Cの監視は日ごとに強くなってる」


「それでも……私、もう逃げたくない」


ユウは小さく息を吐き、苦笑した。


「……わかった。だが絶対に俺から離れるな」



---


レジスタンスの拠点は地下水路の奥にあった。

そこには十数人の仲間が集い、壁には古い機械や地図が貼られている。


「ここが……?」


「Cの目が届かない、数少ない場所だ」

ユウが淡々と説明する。


ナユはパネルを操作しながら、ミオに近づいた。


「Cは“声”の周波数を感知して弾圧してる。

でも、君の声だけは逆にCの中枢に干渉できる可能性がある」


「干渉……?」


「歌はただの音じゃない。記憶を揺さぶる“波”なんだ」



---


夜、仲間たちは焚き火を囲みながら情報を共有していた。

外の空気は張り詰め、遠くで警戒音が響く。


「動きが早いな。もう嗅ぎつけられたかもしれない」

ユウが低くつぶやく。


ミオは焚き火を見つめながら、心の奥に浮かぶ旋律をそっと口ずさんだ。


> 足音だけが 響く夜明け

虚ろな影が 増えていくけど




ナユが顔を上げる。


「……それ、Verse 2だ。思い出したの?」


「夢で……。歌が、私を呼んでる気がした」


ユウが目を細めた。


「歌は危険だ。だが……唯一の希望でもある」



---


その瞬間、外から轟音が響いた。

仲間たちが一斉に武器を取る。


「教団の追手だ!」


ユウが叫び、ナユがミオをかばう。


「ミオ、隠れて!」


「……違う。私が歌えば、道を作れる!」


「無茶だ! 声を出せば位置がバレる!」


ミオは震える唇を開いた。


「それでも――私は、私を裏切らない」


彼女の歌が、静寂を切り裂き、闇を震わせた。

追手の動きが一瞬止まる。

その声は、確かに誰かの心に届いていた。



---


> 世界が沈黙を強いても、

声は消えない。

その歌は、夜明けを連れてくる。

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『Burn in the Silence』 第一章 記憶なき世界 — しょうぷぅ @shoupu

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