第二章 静寂の守人(しじまのもりびと)



目を覚ましたミオの前にいたのは、白いフードをかぶった青年だった。

柔らかい声で彼は言った。


「大丈夫。怖がらなくていいよ」


ミオは体を起こしながら、警戒の色を浮かべる。

だが、青年は武器も持たず、少し離れた位置で座っているだけだった。


「僕の名前はユウ。君を見つけたのは偶然じゃない」


「……ここはどこ?」


「この区画は『第七管理区域』。C――中央統制機関の目がまだ薄い場所だよ。だから、少しだけ自由に話せる」


その言葉に、ミオの目が大きく見開かれた。


「話せるって……声を出していいの?」


ユウは頷いた。


「ここでは、まだね。でも長くは居られない。もうじき、音響監視ドローンが巡回してくる」


「どうして……みんな、声を出さないの?」


ユウは少しだけ眉をひそめ、それでも優しい口調を崩さずに答えた。


「昔、"音"が災いを引き寄せたんだ。今の世界では、“言葉”や“歌”は危険なものとされている。Cはそれを利用して、すべてを管理下に置いた。心を繋ぐ手段さえ、奪うことでね」


ミオは唇を結び、手のひらを見つめる。

そこに、自分の声の温もりを思い出そうとするかのように。


「君の名前は?」


ユウの問いかけに、ミオは首を傾げた。


「……わからない。何も、思い出せないの」


「じゃあ、ミオって呼んでいいかな。今はそれで十分だよ」


ユウの口調は、どこか懐かしい響きを持っていた。


「……ミオ……」


呟いたその名は、不思議と胸に馴染んだ。

まるで、ずっとそう呼ばれていたかのように。


「僕には監視の任務がある。だけど……本当は、君みたいな子を救いたくてこの場所にいるんだ」


「救う?」


「Cの支配に抗う者たちがいる。僕は、彼ら――レジスタンスの一員でもある」


「……!」


ユウは立ち上がり、手を差し伸べた。


「ここから出よう、ミオ。この世界の真実を、少しずつ教えるよ。君にはその目で、耳で、確かめてほしい。君が、何者だったのかも」


ミオは一瞬ためらい、けれどその手を取った。


――誰かを、探していた気がする。


その感覚が胸の奥で微かに揺れた。



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