『Burn in the Silence』 第一章 記憶なき世界 —

しょうぷぅ

第一章 記憶なき世界

——目覚めたとき、すべてが失われていた。


冷たい風が、ひび割れたアスファルトの上を這っていく。

 世界は、すでに終わっていた。


 空は鉛色に曇り、遠くで崩れかけた高層ビルが黒い影のようにそびえ立っている。

 コンクリートの街路樹は枯れ、建物の壁面には赤茶けた苔がこびりついていた。


 そんな廃墟の中を、少女はひとり歩いていた。

 白い髪に、土埃がまとわりついている。身につけた服は、元の色がわからないほど汚れていた。


 彼女の名前は――思い出せなかった。


 何かを忘れている。自分自身のことも、この世界のことも。

 目を覚ましたとき、全てが崩れた後だった。


 唯一、彼女の中に残っていたのは「歌」だった。

 誰の歌かも、なぜ知っているのかもわからない。でも、その旋律だけははっきりと心に残っていた。


 少女は無言のまま、倒れた標識を踏み越える。

 都市の果て。人の気配はない。静寂だけが支配する世界。


 遠くで爆ぜたような音がして、少女は肩をすくめる。風が巻き上げた砂が舞い、視界が滲んだ。

 すぐそこにある死の気配。それでも彼女は歩みを止めない。

 彼女には、理由がある――この世界に取り残されたまま、失った記憶の奥にいる“誰か”を探している。


 風が鳴る。

 少女は空を見上げた。

 そこに、誰かの声があった気がした。

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