『Burn in the Silence』 第一章 記憶なき世界 —
しょうぷぅ
第一章 記憶なき世界
——目覚めたとき、すべてが失われていた。
冷たい風が、ひび割れたアスファルトの上を這っていく。
世界は、すでに終わっていた。
空は鉛色に曇り、遠くで崩れかけた高層ビルが黒い影のようにそびえ立っている。
コンクリートの街路樹は枯れ、建物の壁面には赤茶けた苔がこびりついていた。
そんな廃墟の中を、少女はひとり歩いていた。
白い髪に、土埃がまとわりついている。身につけた服は、元の色がわからないほど汚れていた。
彼女の名前は――思い出せなかった。
何かを忘れている。自分自身のことも、この世界のことも。
目を覚ましたとき、全てが崩れた後だった。
唯一、彼女の中に残っていたのは「歌」だった。
誰の歌かも、なぜ知っているのかもわからない。でも、その旋律だけははっきりと心に残っていた。
少女は無言のまま、倒れた標識を踏み越える。
都市の果て。人の気配はない。静寂だけが支配する世界。
遠くで爆ぜたような音がして、少女は肩をすくめる。風が巻き上げた砂が舞い、視界が滲んだ。
すぐそこにある死の気配。それでも彼女は歩みを止めない。
彼女には、理由がある――この世界に取り残されたまま、失った記憶の奥にいる“誰か”を探している。
風が鳴る。
少女は空を見上げた。
そこに、誰かの声があった気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます