第2話 かわいい…?かわいいかも!
モモと名乗ったノウサギ…ホーンラビット種に着いていけば、だんだんと森が開けて大きな村が見え始める。
「でかいな、思ったより」
村というより小規模な町だ。さすがにレンガなどで舗装されていないが、土が均されて整備されている。大きな人参畑と小麦畑(おそらく)を抜けて人がチラホラと見え始める。
モモのようなウサギもいれば、馬の耳をぴこぴこ動かしている、見たことがあるようなないような少女たちが駆け回っている。ガタイのいい八百屋の主人はゾウかなにからしく、こちらは獣成分多めの獣人だ。
見た感じ草食動物が多い印象を受けるが、マスクを付けた犬型の獣人やキツネもいるので、草食動物だけがいる町。というわけではなさそうだ。
獣人ばかりではあるが、町の活気は人間と変わらない。言語が同じだからだろうか。(転生特典で翻訳されている可能性もあるが…)
露店のキャッチも変わらず騒がしいし、子供は走り回っていて少々危なっかしい。人が多すぎる訳では無いのですんなり通れる大通りは、衛兵のような獣人も何人か立っていて、治安も良さそうだ。
「あれ、お兄さんー!こっちですよ!」
大きな噴水を見ていると、ふとモモの姿が見えないことに気が付く。町に気を取られすぎたか。キョロキョロ見渡せば、右からモモの声がする。
「すまん、今行く」
またどうせ見失いそうなので、今は町を見るのを後にして着いていくことに集中することにする。
赤いキャップの男の子みたくモモを肩に乗せて案内通りに歩けば、通りがだんだん大きくなり、それに伴い人の数が増えていることに気が付く。通路もいつの間にか石レンガに変わり、鎧のような装備を着けた人とすれ違うようになる。
おや…?
ちょっと嫌な予感がするな…
嫌な予感はあたるものらしい。着きました!とドヤ顔なモモが指すのは、明らかにお城だ。しかも結構大きい。モモを見た門番らしきサイの獣人が、表情を崩さず門を開ける。反対側にいるもう1人のサイも変わらず。
何者だ!と槍で止められたりしないんだな…とおどおどしながら立派な門を潜る。立派すぎる庭園を通り越して、お茶会をするところ…(名前が分からない。ガゼボ?とかだったような…)に心配そうにそわそわしているウサギの獣人を見つける。親御さんだろうか。
「まぁ!モモ!無事だったのね…!」
「お母さま!ごめんなさい。私…」
「良いのよ。無理に止めた私も悪かったわ!これからは護衛を連れていくのよ」
「はい!」
「ほら、あなたも」
「あー、その、無事でよかったな。…あー、お父さんも悪かった。あんなに怒ってしまって…」
蚊帳の外だが、不快に思われない程度に観察ができる。
先ほどの馬の耳をぴこぴこさせている少女たちや門番を見て思ったのだが、ここには獣に近い獣人と人間に近い獣人がいるらしい。
目の前のモモの親御さんはどちらかというと獣に近い獣人で、服からもふもふの毛並みがはみ出ていて、テーマパークにいる着ぐるみぽさを感じる。なのでどちらかというと怖いが先に来る。ホラーゲームによく出てくるウサギの着ぐるみと言えばわかりやすいだろうか、生きているので生気があって怖くは無いが、夜に見たらビックリするだろう。
しかしなんというか、慣れたらかわいいかもしれない。オーバーに動く表情筋や動き、言動がだんだんかわいく見えてきた。
しばらく海外アニメチック表情筋を見ていれば、話が終わったらしく、お母さんらしき女性…?メス…?がこちらに近付いてくる。
「娘を助けていただき、ありがとうございます。お礼に、何か出来ることはございますか?」
性癖がベキバキと曲がる音がする。ドレス越しでも分かるダイナマイトボディ。鈴を鳴らすような美声。背の高い美女から繰り出される上目遣い。動く度に鳴るイヤリングから香る甘い香り、おまけに人妻ときた。うーん。役満。
色んなもの投げ捨てて貴女が欲しいです!と叫びたいところを、強靭な理性で押さえつけ、無理やり視界から外し考える素振りをする。
「そうですね…実は…」
ここに来た経緯と、今の状況、魔法を使えるようになりたいことを伝えれば、ぱちくりと2人で目を合わせて笑みを浮かべた。
「そのようなことでよろしければ。いつでもお力添えできますわ」
「ふむ。書庫に魔法についての歴史書があったはずだ。君なら娘を救ってくれた恩もある。貸し出すことは出来ないが、見ていくといい」
そうして、城内に案内され、まずは書庫へ向かった。城内は絢爛豪華…というわけではないが、庶民にはまるきり縁がない場所だ。絵の善し悪しや壺の善し悪しが分かる訳では無いのでその辺はわからないが、綺麗なのはわかる。
書庫は城から少し離れた場所にあるらしく、まずは服を着替えたらどうか。と言われたので、お言葉に甘えて服を貸してもらうことにする。
お抱えの仕立て屋がいるらしく、アトリエが書庫の近くにあるそうだ。
今の服装はパーカーに黒ズボンと見事に黒づくめ。犯人のようではあるが服を選ぶのが面倒くさすぎてこうなっている。許せ。
確かにここでは目立つだろう。ある意味。
「ここだ」
王様…(多分)が立ち止まった扉には、フウカと書かれたプレートがかかっている。部屋の主の名前だろう。
王様はその扉をノックして、返事を待たず入っていった。いいのか…?
ぞろぞろと入った先は、布や未完成であろう服で散らばっていて、小汚い印象を受けるが、歩くことは出来る。その奥にはラックにかかった服がずらりと並び、ミシンの稼働音がずっと鳴っている。
「奥の部屋にいるはずだ。呼んでくるから待っていてくれ」
王様が少しだけ大きな声を出す。そうじゃないと聞こえないからだ。しばらくミシンの音の中に立たされ、王様が蝶の羽を揺らす男性を連れてきた。
「おや、人間ですか。珍しいですね」
「ども」
「娘の恩人だ。服を見繕ってやってくれ」
「ふむ、」
蝶の男性は、そのまま後ろにある棚に向かってがさごそと漁り始める。袋に詰められ綺麗に畳まれた服が何着か外に出され、4着ほど出したところで、「お」と声を出した。
「ありました。予備を多く作っていて良かった。来てみてください。試着室はあちらです」
そう言われて渡された服には、知らない言語が書かれていた。おそらくサイズ表記だろうが、これで翻訳魔法的な何かがかかっていることがわかってしまった。つまり言語を学ぶ必要があるということ。難易度が爆上がりした。
試着室は質素な空間で、綺麗に片付いていた。ここで初めて鏡を見たが、転生特典か結構イケメンになっていた。体型もシュッとしていて、前とは大違いだ。
シンプルなシャツとズボンも普通に似合ってしまう。前はこれを妬んでいたなと懐かしくなる。ぜひ気を引き締めていこう。
サイズは恐ろしいほどピッタリ。やはり本職は見ただけでサイズが分かるんだな。と感心していると、試着室の向こうからお呼びの声がかかった。
「すみません。長くなりました。サイズピッタリです。ありがとうございます」
「良かった。その服は預かっておきましょう。こちらで保管しておきますよ」
「助かります」
蝶の男性が自分の服を受け取ると、ポン!と小さな光が舞って服が消える。これが魔法というやつか。
「後ほど着替えも渡しますね。時間があればお越しください」
「ありがとうございます」
では、と蝶の男性は作業に戻って行った。王様に着いて行って部屋を出る。そういえば、フウカは誰なんだろう。
「あれはフウカという。前代からの仕立て屋でな。あれでも古くからいる」
「フウカとあったので、女性かと思いました」
「蝶の一族は、男女関係なく名をつける。フウカは風の魔法が得意な一家の出でな。仕立て屋の傍ら、魔法部隊の指揮官もやっている」
「指揮官…」
「その辺の説明も書庫で済ませよう。申し訳ないが、貴殿を巻き込んでしまう可能性がある」
「え」
嫌な予感Part2…
衛兵も多く、冒険者らしき風貌の男女が出入りしていたため、もしかして…と思ったが、そのまさからしい。
「我が王国は戦争の危機に瀕している。どうか力を貸してくれないだろうか」
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