第3話 難しい話は眠くなりますよ

詳しい話は書庫で。と書庫に向かう。重厚な扉の先は、本棚で埋め尽くされていて本の匂いがする。かび臭い…というわけではなく、図書館で管理されている本のような匂いがする。実際司書さんが何人かいて、3人ほどが座っている机の後ろには本を管理するためのフィルムや書類が置いてある。

耳障りにならない音量で、クラシックのようなオルゴールの音楽がかかっている。いるだけで眠くなりそうだが、話を聞くために気を保つ。


王様は近くにいた司書さんに耳打ちする。静かにお辞儀する司書さんがどこかへ向かうのを確認した王様が、こちらに振り返る。


「資料を持ってくるよう頼んだ。話はそれからだ。ルール故飲食はできぬが、喉が渇いたり小腹が空けば申せ。用意する」


1面ガラス張りの空間に案内され、心地よい太陽光を浴びながら司書さんが来るのを待つ。しばらくして現れた司書さんは、2人がかりで資料や本を持ってきていて、その後ろに控えていた司書さんも机の傍に立つ。


王様が資料や本のページを指しながら説明する。


「我がニアマル王国は、獣人の治める国。国は2つに別れており、半分は我々が。残りの半分は肉食みが担っておる。危機に瀕していると言ったな。跡継ぎであるモモが人間に近い獣人の姿をとるため、獣至上主義の派閥から反対されている。そのため、獣至上主義の推薦であるファイヤーホース種の男子と跡継ぎ争いが起こっていてな。このままでは内戦は避けられぬし、肉食みもルールがあるため手出しできない。かといって、獣至上主義派閥に王位を譲れば、他国へ影響がでる。彼らは人間と争うつもりだ。それはニアマル王国としても避けたい。そこで貴殿。頼みがある」


「辺境に住まう、悪しき竜を討伐してくれ。さすれば、至上主義の彼らも納得し王座に座るため争うことは無くなるだろう。モモが次期女王となれるよう、協力してくれないか」


王様の真剣な眼差し。まだ戦闘スキルがあるかどうかも分かっていないのに、随分と急な話だな。と思っていると、顔に出ていたのか、


「貴殿はすでに戦闘系魔法が使えるようだ。その力を使い、協力してくれないか」

「…なるほど。やってみるだけやってみます」


帰れるかわかんないし、とりあえず協力しよう。明日の宿もないし。



まず自分がすることは、スキルの確認だ。暴発して体のどこかしらが吹き飛ばないよう子供向けの魔法教本を参考にしつつ、万が一がないように広い空間を貸してもらって、ニアマル王国の魔法使いさんに協力してもらう。


「まずは魔力の流れを意識してみましょう。魔力は我々に生まれた時から存在するもの。少し認識をずらしてみましょう。なにか、普段は感じないものがあるのがわかるでしょう」


魔法使いさんは、祈るように目を閉じた。それに倣って目を閉じれば、確かにある。体の外側というかなんというか。心は脳みそと心臓、どちらにありますか。と聞かれた時くらい曖昧であるが、確かに何かある。それは白くぼんやりと光っていて、何色にも染まる透明をしている。


ここからどうすれば良いのか分からなかったので、とりあえずその白くてぼんやりとした光を大きくしてみる。その白い光がわたあめに見えたので、わたあめを大きくするイメージをすれば、白い光はだんだん大きくなる。


「できていますよ。お上手です!」


魔法使いさんが、手を合わせて喜ぶ。では、…と徐にふところから棒状のものを取り出す。おそらく杖だろう。


「これは魔法を使う時に使用する杖です。形は人によって様々ですが、まずは一般的に流通している杖を使ってみましょう。これは訓練用杖です。主に子供が使うものですが、カナタ様は初めて魔法を使うので、ぴったりでしょう」


あ、今更だけど俺はカナタ。前の時の名前は忘れたので、やっていたソシャゲの推しキャラと同じ名前をしている。名前を借りているので、恥ずかしいことはしないようにしよう。

初めて魔法を使うのは間違いないので、そっと受け取る。すべすべしているプラスチック…?のような手触りで、ケガしないよう先端はまるくなっている。

握りやすく持ち手にゴムが付いているので、その部分を握れば、少し小さく感じるが握りやすい。


「では、あの的に向かって攻撃魔法を打ってみましょう。あの的が壊せるか、傷を付けることができる魔法を打ってみてください」


あの的は人間の形をしているが、木製なので火属性の魔法だろうか。傷を付けるなら、初日で狼にやったみたいに弾丸みたいなものを打ってみるか。

弾丸では小さな穴しか開けられないので、(もちろん口径をあげれば大きな穴があくが、そこまで詳しくない)風の玉みたいなのを想像する。爆風で吹き飛ばすイメージ。吹き飛ばすイメージ……


「!、お上手です!魔法を使う素質はありますね。得意属性を探してみましょうか。疲れはありますか?」

「特に。まだやれます」


それから空に向かって色んな属性の魔法を打つ。水鉄砲をイメージした水属性魔法。全てが四角いゲームで出てきた煉獄のモンスターをイメージした火属性魔法。天気予報で何回か見かけた台風みたいな風魔法。土を更に固めて岩のようにしてぶつける土魔法。他RPGとかでよく見る魔法を何回か打っていれば、魔法使いさんが突然声を出した。


「魔力は大丈夫ですか!?あまり減りすぎると気絶してしまうので、体に良くないんです」

「まだ溢れてる感じします。てか、打てば打つほど増えてくような…」

「練度が上がっている…?でも、そんな条件無かったような…、あ、すみません。でも、そろそろやめましょうか。あまり長時間やるのも推奨しませんし」


なんだかぶつぶつ言われていたが、所謂転生特典ってやつだろう。そろそろ体力的に疲れてきたのでありがたい。

…テンションがあがってたくさん魔法を使っていた時にもう少しやれそうなのにできないもどかしさがあった。子供が使う杖を使っていたからだからだろうか。

あの時…狼を相手したときより威力がない気がする。火事場の馬鹿力と言われてしまえばそれで終わるが、もしかしてがあるから試してみよう。


あの時はその辺の枝でやったな。

森の入り口辺りの広い空間だったので、枝はたくさんある。

俺はその中からカッコイイ形の枝を選んで、空に狼に打ち込んだのと同じ魔法を使ってみる。


「そい。っうわ!」


木の枝から放たれた風の塊は、勢いよく空に発射され、雲を蹴散らした。


「え…これやばいか?」


空の上に誰もいないことを願う……

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