Thread 02|ずっと、通話中

私が“ミズキ”からの電話を初めて受けたのは、高校に入学したばかりの頃だった。


もう一年以上も前の話。

深夜2時44分。

LINEに、見覚えのない名前から着信がきた。

新しいクラスの誰かだろうか。そう思って、寝ぼけたまま通話ボタンを押した。

最初に聞こえたのは、掠れたような女の子の声。

「ありがとう、わたしと友達になって」

眠気の中で、よくわからず曖昧に「うん」と返した。

でも、徐々に目が覚めていくにつれて、じわじわと恐怖が滲んできた。

知らない名前、知らない声、知らない相手。

それなのに、どうして「ありがとう」なんて言われたんだろう。

「通話を切らないでね」

そう囁いたきり、相手は黙った。

気づけば画面は真っ暗。でも、通話は切れていなかった。

それからだ。

夜な夜なミズキから"着信"がくるようになった。

怖かった。

でも私は、忘れたふりをした。

普通に過ごしていれば、いずれ静かになる。そう信じたかった。


──でも、ミズキは静かになんてならなかった。


寂しいのはわかる。

でも、何百時間も繋ぎっぱなしなんて、ただの執着だ。

「友達ができなかったのは、そのしつこさのせいでしょ」

心の中で、私はそう毒づいた。

でも、本当はわかってた。

寂しさに少しでも共感してしまったら、私も“向こう側”に引きずられる。

だから切れない。絶対に。

通話を切ったら、取り返しがつかないって、本能が警告してくる。

通話料はかからない。

仮にかかったとしても、命よりマシだ。

そう自分に言い聞かせながら、私は“通話中”のスマホをポケットに押し込む。


聞こえないふりをして、日々を過ごすしかなかった。

私はだんだん、人と話さなくなった。

そんな私に声をかけてくれたアヤカも、きっともういない。


それでも、私のLINEはまだ、通話中のままだ。

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