[ThreadStory] 絶対に出てはいけない着信~外伝「ユイの通話」~

風光

Thread 01|3限目の終わり

本編では静かに語るだけだったユイ。

実は彼女は、過去に“ミズキ”と通話していて――


***


「『ミズキ』って、知ってる?」

教室へ戻る途中のタカシの何気ないひと言に、私は鼓動が跳ね上がるのを感じた。

背中に冷たいものが走って、思わず足が止まりそうになる。


まさか、が、ここで。

廊下を歩きながら、前を行くタカシとサトシの背中をじっと見つめた。

誰かが“その名前”を口にするたびに、不安になる。

お願い、このまま、何も起こらないで。

誰も、深く踏み込まないで。

祈るような気持ちで、私は顔を伏せ、教室へ向かった。


でも、わかっていた。

もう遅い。


案の定、昼休み。

タカシはまた屋上でその名前を口にした。

半信半疑のサトシとケンジも、面白半分に食いつく。

「でもそれ、通話に出たらヤバいってやつだよね」

そう、電話にさえ出なければいい。

だから私は、アヤカに念を押したはずだった。

けれど、アヤカとは今朝から連絡が取れない。

タカシはそのことも知らずに、あっさりと話す。

「アヤカ、昨日言ってたんだよな」

「それ……私も聞いた」

その瞬間、風が吹いた。

屋上のドアが、バタンと激しく閉まる。


そう、のだ。


ポケットの中のスマホが、わずかに重く感じられる。

私は知っている。

私のスマホは、もう一年近く、繋がったまま。


『ミズキ:通話中 9559時間56分』


消えない文字が、ずっとそこにある。

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