第4話『柔らかなゴリ押し』

 おれは「んーー困ったな(笑)」と、わざとらしく腕を組み、空を仰いだ。本当に困っているというよりは、律儀すぎる彼女の反応が面白くて、つい揶揄いたくなる。まさか「水一杯」でさえ却下されるとは。


「だめですよ!ちゃんと、お店で飲みましょう?というか、ちゃんと座って、落ち着いてお話しできるところで、お礼をさせてください!」


 女性は、先ほどまでの「生命よりスマホ」発言が嘘のように、真面目な顔で畳みかけてきた。その真っ直ぐな視線に、少しばかり気圧される。断固として譲らない、という強い意志が感じられた。


 本当にいらないのに、ここまで言われると、逆に申し訳ないような気になってくる。それに、こんな場所でいつまでも押し問答しているのも、傍から見れば怪しいだろう。


「んー……そこまで言うなら、別にいいけどさ。」


 おれは、降参したようなポーズで両手を上げた。まあ、彼女の気が済むなら、それも悪くないか。


「ありがとうございます!」


 女性は、まるで念願が叶ったかのように、パッと顔を輝かせた。その表情は、今までの感謝の気持ちが爆発したかのように、満面の笑みに変わった。


「あの、お時間、今、大丈夫ですか?この近くに、いいカフェがあるんですけど……」


 話はとんとん拍子に進んでいく。どうやら、彼女の中では、すでに次のお礼のプランまであったらしい。その周到さに、呆れるような、感心するような、複雑な気持ちになった。


「ああ、別に大丈夫だけど。本当に、コーヒー一杯でいいんだからな。」


 念を押すように釘を刺すと、女性はさらに笑顔を深めた。


「はい!もちろんです!あ、私、高橋まゆみです。改めて、助けていただいて、本当にありがとうございます!」


 そう言って、彼女は深々と頭を下げた。律儀で、少しおっちょこちょいな高橋まゆみ。思いがけない出会いと、それから始まるであろう、少しばかり奇妙な「お礼」の時間が、不意に目の前に開けた。り

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