第6話

 タイジが金球殿での勝利を収めて三日後、彼の元に黒い封筒が届けられた。


 差出人は記されていない。ただ、銀色のインクでこう記されていた。


 **『正式招待:ギャンブル・リーグ本戦』**


 タイジはその封筒を静かに開いた。中には、黄金のチケット。

 そして、次の試合の会場と対戦相手が印刷されていた。


---


#### 開催地:東京湾・人工島『死灰ドーム』


#### 対戦相手:No.17 ランカー「クロウ・シンジ」


#### 形式:地下闘技式タイブレークトーナメント(サドンデス)


※本戦出場者16名、1回戦は“実質敗退=死亡”リスクあり


---


「……ここが本番か」


 タイジは荷物をまとめ、静かに人工島へと向かった。


---


## シーン:東京湾・死灰ドーム


 灰色の海上に浮かぶその施設は、廃棄された軍事研究所を改装した“死のコート”だった。

 地上には金属製のドーム、地下には回転式のコートが4つ設置されている。


 観客席には、選ばれた上位のギャンブラーたち。

 国家元首、犯罪王、巨大企業のCEO、死刑囚までがVIP席に座っていた。


 司会者が宣言する。


「Ladies and Gentlemen……!

 お待たせしました……! ギャンブル・リーグ本戦、**“亡者のトーナメント”**、今ここに開幕!!」


 観客が叫び、金が飛ぶ。

 選手紹介が始まった。


---


### 第1試合:タイジ vs クロウ・シンジ


 タイジがコートに足を踏み入れた瞬間、対面から現れた男に息を呑んだ。


 全身黒づくめ。帽子を深くかぶり、顔の半分がマスクで覆われている。

 その目は死んだように虚ろで、どこか“機械”のような冷たさを持っていた。


「水城……タイジ」


 相手が名を呼んだ。


「……俺のことを知ってるのか」


「いや。記憶はない。だが、身体が震えている。お前を見ると、なぜか怒りが湧く」


 審判が言う。


「クロウ・シンジ、元U-16日本代表、3年前の事故で死亡扱い。

 現在は生死不明のまま、再起不能とされていたが……」


 ハルオが客席からつぶやく。


「……再生手術か。どこかの国が闇技術で“プレイヤー”を作ったな。魂のない傀儡だ」


---


## 試合開始


 試合形式は、**1ゲーム先取のサドンデス・タイブレーク**。

 ミスは許されない。1ポイントで、命が決まる。


 サーブはクロウ・シンジから。


 ……その動きは、美しかった。

 無駄がなく、まるでプログラムされたような動作。


 **ズバァン!!**


 サーブは、ラインギリギリを突いた。

 タイジはギリギリでラケットを合わせ、カウンターを放つ。


 だが、返球と同時にクロウがすでに前に詰めていた。


 「なっ――!」


 ラケットではなく、**肘**でボールを打ち返す。

 ボールは地を這うようにスライスし、ネットに吸い込まれた。


 **0-1、クロウ得点!**


 観客がざわめく。普通の選手なら、反則行為――

 だがここは、ギャンブル・リーグ。**武器でなければ、何を使っても自由**。


 タイジは深く息を吐いた。


「……なるほど。魂はなくても、プレイは本物か」


---


## 逆襲の構え


 タイジのサービスゲーム。


 手の内を見せる時間はない。

 一撃で終わらせる必要がある。


 構えは――“無拍”。


 だが今回は、それをさらに進化させた。

 踏み込みから放つ、**零距離ドライブ・サーブ**。


「――“零殺(ゼロキル)”」


 ラケットが唸り、ボールが光の矢となって走る。


 クロウは機械的に反応するも、わずかに動きが遅れた。


 **直撃。**


 ボールが腹部に突き刺さり、クロウの身体が5メートルほど後ろに吹っ飛ぶ。


 **1-1、タイジ得点!**


 観客が歓声を上げる中、クロウがゆっくりと立ち上がる。


 口元から血を流しながら、ひとこと。


「……“感情”が、揺れた……? これは……なんだ」


 タイジが一歩踏み出す。


「それが“テニス”だ。命のやりとりに、魂を乗せて打つ――

 お前がそれを思い出せるなら……俺は、もう一度勝ってみせる」


---


## クライマックス:決着の一球


 互いに1点ずつ。

 最後の一点で、勝者と敗者が決まる。


 クロウが振り抜いた打球。

 タイジが読み、踏み込み、全身を込めて打ち返す――


 **魂を宿した一球。**


 観客が、息を飲む。


 クロウの瞳が震えた。


 「これは……あの時……俺が……」


 彼の身体が止まり、ボールが足元で弾む。


 **2-1、タイジ勝利!**


---


## 試合後


 クロウ・シンジは崩れ落ちるように倒れ、仮面が割れた。

 その下から現れたのは、かつてタイジのダブルスパートナーだった男――**村瀬ユウト**。


 「ユウト……お前……生きて……」


 「……タイジ……ありがとう……お前の……ボール、あったかかった……」


 ユウトは涙を流しながら、意識を失った。


---




---


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る